※犯罪の理論
一 犯罪概念
(1)犯罪の意義
1、犯罪概念は、刑法学では、種々の意味に用いられる。
①経験科学の刑事学・犯罪学の犯罪概念は、実在している犯罪。
②刑法解釈学の刑法各論の犯罪概念は、殺人・放火・窃盗・公務執行妨害などの個別類型的概念の犯罪。
③刑法総論の犯罪は、一般概念としての犯罪である。
⇒犯罪のこのような一般的概念の解明する部分を犯罪の理論(犯罪論)という。
※犯罪の一般概念を明らかにする意義
①犯罪を犯罪でない類似の現象から限界づける基準明確化。
②この点とも関連して、犯罪の認定に統一的原理を与え、処罰・不処罰の根拠に体系的意味
を付与。
(2)一般概念・犯罪
1、犯罪とは、構成要件に該当し、違法でかつ有責な行為をいう。
⇒犯罪は、構成要件該当性・違法性・有責性という三つの属性を備えた行為であり、犯罪を形式論理的に整理して、「形式的意味での犯罪論」といわれる。
(3)犯罪概念の構成要件
(一)形式的犯罪概念を構成する一つ目の要素(行為)
1、刑法学において、行為は犯罪評価の基底となる重要な要素である。
⇒行為論には「構成要件的行為論」と一般的に行為そのものを問題とする「裸の行為論」がある。
2、犯罪の概念要件としての「行為」とは、意思による支配可能である何らかの社会的意味のある人間の外部的態度、およびこれによる外界の変更をいう。
⇒行為の主体は人間に限られる。
また外部的態度とはいえない意思や思想それ自体も行為ではなく、処罰の対象とならない。
(二)犯罪概念の二つ目の要素(構成要件該当性)
1、構成要件該当性は、行為を犯罪とするための第一の属性とされる。
⇒行為が犯罪となるためには、まず構成要件に該当することが必要になるのである。
2、構成要件該当性とは、現実に行われた犯罪行為が一定の法律上の定型にあてはまることをいう。
(三)犯罪概念の三つ目の要素(違法性)
1、構成要件該当性の判断に続いて違法性の判断が行われる。
⇒通説によると、構成要件は違法・有責な行為の類型ということになるから、構成要件該当
性が認められる段階では、違法性阻却事由のみが問題となる。
2、たとえ、構成要件に該当するとしても、違法でない行為は有害性はなく、したがって犯罪を構成しない。
⇒構成要件が犯罪のパターンに該当する場合でも、悪くない(違法とされない)場合には、犯罪を構成しない、ということを意味する。
3、違法性阻却事由には、事例を上げるとすれば「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人
の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」(刑法36条)とする正当防衛の規定がある。
⇒これには、明文のない違法性阻却事由も認められる(超法規的違法性阻却事由)。
(四)犯罪概念の四つ目の要素(有責性)
1、違法性の判断ののち責任の判断が行われる。
⇒構成要件に該当し違法な行為であっても、それが自由(行為者の自発的)な意思による場合に初めて非難が可能とされ、他の行為を採ることを規範的に期待しえない場合には非難が出来ず、これを治療や教育の対象とする意味において、処罰の対象とすることは相当でないとされる(道義的責任論)。
2、この部分は前2段の判定により、犯罪のパターンに該当して違法な行為であると認められた場合に、その責任を当該犯人に問うことが妥当かどうか、という点を問題とする。
⇒違法性阻却事由該当事実を誤想した場合には故意責任は問えないとされる(厳格責任説を除く)。また、行為者が重度の精神障害を患ったりしている場合には、その者の行為は処罰の対象とならない。明文のない責任要素ないし責任阻却事由も認められる。
二 犯罪論の体系
(1)犯罪論の構成方法
1、犯罪の成立要件をどのように構成するかを犯罪論体系の問題と呼んでいる。
⇒この体系化によって犯罪の定義が行われている。
2、刑法学における犯罪は、ドイツの刑法理論を継受する国(日本も含まれる)においては、犯罪の成立要件を①構成要件、違法、有責の三つの要素に体系化し、犯罪を「構成要件に該当し違法かつ有責な行為」と定義することが多い。
⇒この他の体系を用いて犯罪を定義する刑法学者の存在もある。
3、この他に、②行為・構成要件該当性・違法性・責任の四つとするものと、③行為・不法(違法性)・責任(有責性)の三つとするものの説がある。
4、見解が分かれるのは、第一に犯罪概念の第一要素を何に求めるかという点、第二に、構成要件該当性と違法性の関係をどのように考えるか、この二点をめぐって学説の間に見解の対立がみられる。
(2)「構成要件論」と「行為論」
①構成要件論
1、独の刑法学者・マックス・エルンスト・マイヤーらと日本での通説は、犯罪の成立要件として構成要件、違法、有責の3つの要素を挙げている。
⇒構成要件を犯罪の第一の成立要件としていることである。
2、犯罪の成立については、はじめに構成要件該当性が判断される。問責対象となる事実については構成要件該当性が必要となる。
⇒構成要件とは、刑法各論や特別刑法に個別の犯罪ごとに規定された行為類型のことであり、犯罪のパターンとして規定されている内容に行為が合致するかどうか、が構成要件該当性の問題となる。
3、構成要件要素は、行為、行為の主体、行為の客体、行為の状況などが挙げられる。
(構成要件を別の犯罪成立要件とみる説では除かれることになる)
4、各犯罪類型の構成要件はそれぞれ固有の行為、結果、因果関係、行為主体、状況、心理状態などの構成要件要素を備えており、問責対象となる事実がこれらの全てに該当して初めて構成要件該当性が肯定される。
5、構成要件には基本的構成要件(直接の処罰規定があるもの)と修正された構成要件(未遂犯や共犯など)がある。
6、行為の主体は自然人でなければならないとされ、刑法上は法人は犯罪の主体とならない(日本では通説である)。ただし、特別法の規定により処罰の対象とすることはできる「両罰規定」がある。
7、もちろん人間以外の生物は犯罪の主体とはなりえない。
②行為論
1、行為でないものはおよそ犯罪たり得ないのであり、行為性は犯罪であるための第一の要件であると考えることができる。
⇒この意味で、行為性を構成要件該当性の前提となる要件として把握する見解も存在する。
2、行為の意味についてはさまざまな見解が対立している(行為論)。
※行為でないものとしての例としては、人の身分(魔女狩り)や心理状態(一定の思想などへの弾圧)などがある(歴史的にはこれらが犯罪とされてきた意味において)。
⇒犯罪が行為でなければならないということは、これらのものは犯罪とは解釈を異にする。なお、行為とは作為だけでなく不作為を含む概念。
(3)構成要件該当性と違法性
※犯罪論の構成方法に関する諸見解がある。
①独立した犯罪要素とみる立場。
②表裏の関係にあるとし、前者を後者に含めて考える立場(その逆もある)。
※構成要件は違法性と無縁でありえない。
・構成要件に該当する行為は、通常違法であるということ。
※行為が犯罪の観念としての構成要件に該当するという判断は、事実に対する実質的な価値判断ではないので、構成要件該当性は、事実に対する実質的な否定的価値判断である違法性とは区別される。
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