憲法のお勉強 第23日

※比較衡量論

1、人権と公共の福祉の問題を調整する方法が、比較衡量論と呼ばれる違憲審査の基準です。

⇒これは、人権を制限することによりもたらされる利益と人権を制限しない場合に維持される利益とを比較して、どちらの方が利益が大きいかという比較基準であり、「個別的比較衡量」ともいう。

2、比較衡量論は、公共の福祉における人権制限の合憲性を判断する考え方とは異なり、個々の事件において具体的状況を踏まえて対立する利益を衡量しながら妥当な結論を出す方法である


【重要判例】

※比較衡量論を用いた判例は、博多駅テレビフィルム提出命令事件及び猿払事件判決である。

○博多駅テレビフィルム提出命令事件(最大決昭和44・11・26)

1 報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。

2 報道機関の取材フイルムに対する提出命令が許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、これによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。


猿払事件判決 (最判昭和49年11月6日)

…懲戒処分と刑罰とは、その目的、性質、効果を異にする別個の制裁なのであるから、前者と後者を同列に置いて比較し、司法判断によつて前者をもつてより制限的でない他の選びうる手段であると軽々に断定することは、相当ではないというべきである。


【問題】

(批判)

1、比較衡量論は、比較の基準が明確ではなく、とくに国家権力と国民との利益の衡量が行なわれる憲法の分野において、「国家権力の利益が優先する可能性が強い」という点に問題がある。

⇒この基準は、同じ過程における重要な二つの人権(報道の自由とプライバシー権)を調節するため、裁判所が仲裁者としてはたらくような場合に原則として限定して用いるのが妥当ということになる


※二重の基準論

1、この比較考量論に対して、学説では、「二重の基準」論が提唱されている。

⇒比較衡量論の問題点を指摘して、前述の一元的内在制約説の趣旨を具体的な違憲審査の基準としてさらに広げて主張されたのが、アメリカの判例論に基づき形成された「二重の基準」の理論である。

2、この理論は、精神的自由権と経済的自由権を対比することにより、精神的自由権等の重要な人権を制限する立法は、それ以外の経済的自由権等を制限する立法より、厳格な基準によって審査されるべきとする理論である。


【二重の基準論の判例】

※判例も二重の基準を取り入れていると評価されているが、経済的自由に関する判例法理として展開されたものであり、この代表的判例が、小売市場距離制限事件(最大判昭和 47・11・22 )及び薬局距離制限事件(最大判昭和 50・4・30 )で、精神的自由に関する判例のうちに二重の基準を採用したものは未だ存在しないとされている。


※従来の学説に対する批判

 (1) 一元的内在制約説に対する批判

1、 通説である「一元的内在制約説」に対しては、「人権を制約する立法の合憲性を具体的にどのように判定していくのか、必ずしも明らかではない」という批判がある。

2、これに加えて、H教授は、こうした従来の「公共の福祉=一元的内在制約」とする学説に対して、それが、①「ある人権を制約する根拠となるのは必ず他の人権でなければならない」という前提に立っている点であり、②「あらゆることをなしうる一般的な行動の自由」を前提としているかのように考えられている点という二つを挙げて批判している。

(詳しくは長谷部恭男教授の論述参考。)


※「一元的内在制約説は、人権が互いに矛盾・衝突するものであり、それを調整するために公共の福祉に従い制約せざるを得ないものであるとするが、そこには、およそ人は自らの好むことは何であれ、これをなしうる天賦の「人権」を有するという前提がある」とするが、そう捉えると、人権の中には、殺人の自由や強盗の自由など他者に対して害悪を与える自由も含まれることになること。

⇒しかし、これにおける自由は、日本国憲法の思想の源となっている社会契約論の理念からいっても人々に保障されているとは考えにくいことだけではなく、「人権」を本来、無制約とするこの考え方は、公共の福祉を名目とする国家による規制をも無制約とする危険をはらむ可能性も大きい。


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