民法(総論)のお勉強 18日目

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学習テキスト

第三節 法律行為と強行規定および公序良俗(C)

※強行規定に反する法律行為

(1)強行規定

1、違法な法律行為は、国家が権利の実現に協力することができないから有効とはできない。

⇒すなわち①強行法規に違反していないか、②脱法行為ではないか、という基準がある。


強行法規とは

1、公の秩序に関する規定で当事者の合意で変更できないものを強行法規(強行規定)という。

⇒強行法規に反する当事者の特約は原則として無効となる。


※任意規定

対して、当事者の特約が優先するような規定を"任意法規"という。


○強行法規違反(以下のもの)

・資格や免許が必要な行為を、無免許、無資格で行った場合

・取引について許可を求める行為を無許可で行った場合(経済統制法違反)

・法の定めを超えた価格での売買契約を行った場合(統制価格違反)


※"強行法規"は、民法91条の反対解釈(二元説)とも、90条の公序良俗規定を基盤にしている(一元説)ともいわれる

※強行法規か任意法規かは法の趣旨の解釈によるが、民法については、おおむね契約に関する規定は任意法規であり、物権や相続・親族法の規定は強行法規とされる。


(2)取締規定

1、法が禁止している行為のすべてが強行法規となるわけではないことに注意。

⇒行政的に取締りをするにすぎない法規を取締法規といい、強行法規とは区別されることである。


※取締法規に違反した場合は、原則として、私法上の効力は否定されない。

(つまり無効とはならないのである)

⇒しかし、公共性の強い厳格な制限のある取締法規は「効力規定」として区別。

※私法上の効力も否定される

(無効となる)


2、取締法規か効力規定かの区別

※その行為が無効か有効かに関わってくるため重要だが、両者を区別する明確な基準はないとされること。

⇒個別に、非難性や取引の安全などを考慮して判断する必要がある。

※また、問題となる法律行為がどれだけ履行されているかの段階を考慮する必要もある。


・無免許や無資格による営業行為については、弁護士でない者が弁護士活動を行うことについては無効とされる

(効力規定という)

・営業許可を受けていない「白タク」との運送契約

⇒乗客との間では無効にならないとされる

(契約自体は有効とされるので注意。)

※行政上の処罰の対象にはなるという意味である。

・食糧管理法に違反するような売買を無効ではないとした判例もある。

(大判昭34.5.21)


(3)取締規定と効力規定との区別

1、取締規定(行政取締上の目的から一定の行為を制限・禁止する規定)に反する法律行為につき、それが無効となるかどうかも問題となる。


・私法上の任意規定と強行規定の区別に対応して、取締規定のうちそれに反しても司法上無効とならないものを「単なる取締規定」ということ、

※それに反すると無効となるものを「効力規定」と呼んでいるのである。


○効力規定であるか単なる取締規定であるかの区別

・違反行為を有効とすると取締りの効果を挙げられなくなるかどうか、違反行為につき無効とすることで害される取引相手の信頼や取引の安全など、違反行為を有効とすることで社会倫理に反するか否か、などを総合的に考慮して判断する。

・取締規定について一律に効力規定であるから無効とか、そうでないから有効などとするのではなく、90条違反を考える上での一要素として、当事者の行為の態様や公平なども考慮しつつ総合的に判断するべきとの説があることに着目すべきである。

⇒取締規定違反の行為については、その行為の履行段階を考慮すべきとの説

(履行段階論とよぶ)が主張されていること。

・また履行段階論といってもその内容は一律のものではなく、すでに履行がなされている場合にはこれを無効とすると取引の安全を害するため有効とし、一方で、履行がなされていなければ法律行為の内容や当事者の事情などを総合的に考慮。

⇒有効・無効を判断すべきとする説。

※履行がなされている場合には諸般の事情を考慮して判断する一方で、まだ履行がなされていない場合にはこれを無効とするとの見解などがある。


※脱法行為

1、強行法規違反として無効となることを免れるため、他の形式で同一の目的を遂げようとする行為を脱法行為という。

⇒こういった法律行為は、どう処理されるか。

※法律で脱法行為を禁止している場合は、当然該当の脱法行為も禁止されるのである。


2、脱法行為を法が禁止している場合

(例)

:利息制限法第3条

「金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他何らの名義をもってするを問わず、利息とみなす。」

(手数料などの名目で、法定の利息以上の利息をとることは論外だということになる)


※問題となるのは、以下のような契約である

①恩給担保

・恩給受給者が受給権に担保を設定し、その債権者が受給者に代わり、恩給を代理受領する契約を恩給担保契約という。

⇒恩給を担保に設定できる旨の恩給法の規定があるが、これは脱法行為とはならないが、恩給法11条に反するような行為は、脱法行為として無効となる。

※恩給とは、公務員や旧軍人、遺族に払われる年金や一時金のことをいう。


②動産譲渡担保

1、動産の所有権をいったん債権者に譲渡し、これを債務者が借り受けて利用するという契約を譲渡担保契約という。

⇒物権法定主義(175条)や代理占有質の禁止(345・349条)に反する。

※民法の不備を補う合理的でやむをえない担保であり、脱法行為とはされない(判例)。


※公序良俗に反する行為

(1)公序良俗

1、法律行為が有効であるためには、その内容が、社会的に妥当であるものでなければならないとされている。

⇒公の秩序や、善良の風俗(一般の社会的な利益や倫理)に反する行為であってはならないということを意味する。

※社会的妥当性のある行為とは、公序良俗に違反しない行為ということになる。

・・・・・

第90条(公序良俗)

公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

・・・・・

※公序良俗に関する90条の規定は、一般条項である。

⇒判例でその適用基準や範囲などは類型化されるが明確な定義が確立しているわけではないことに注意。


(2)公序良俗の具体的内容

①犯罪や違法性のある、正義観念に反する行為

・民法は、不法な条件を付した法律行為や、不法なことをしないことを条件にした法律行為を無効とする(132条)。

※"誰かを殺したら100万円"とか、"殺しを思いとどまれば、これを挙げる"などの契約は当然無効となる。


②家族や性道徳など人倫に反する行為

・家族と同居しない旨の約束を違約金付きですることなど。愛人契約も公序良俗に反し無効である。

⇒判例は、関係を断ち切るための契約(手切れ金契約)は公序良俗に反しないとする傾向にあることに注意。


③自由を不当に拘束する行為

1、芸娼の妓稼働契約は無効。さらに妓稼働契約における前借金の消費貸借契約も無効とする

(最判30.10.7)

※かつてのキリストも無実ならば、その拘束も厳罰の対象になる。

人々はイエスが誰であるかを知らなかった。


④合理性のない差別的、不平等な取り扱い

・男女の定年に差異を設ける定めは違憲でもあり、公序良俗にも反して無効。

(日産自動車男女定年差別事件(最判昭56.3.24)

※現在は"男女雇用機会均等法"が施行されているので、違法性が改めて確認されている。

※不当な営業の自由の制限や、不平等にすぎる約款などは公序良俗に反することになる。


⑤暴利行為

・他人の窮迫や無知につけこみ、不相当な高利や、莫大な違約金を付した契約をするなどは、公序良俗に反する。


⑥動機の不法

・殺人をするために包丁を購入するなど

⇒ある法律行為(包丁の売買)をする動機(殺人)が不法である場合にも公序良俗違反とされる。

・ただし取引の安全を考慮し、相手方に不法な動機が表示されたときのみ法律行為は無効にすべきとする"動機表示必要説"と、不法な動機の法律行為は無効だが善意者は保護されるとする"善意者保護説"等, 学説は分かれている。

※「賭博の用に供されることを知つてする金銭の消費貸借契約は、公序良俗に違反し無効である。」とした判例がある。

(最判昭61.9.4 )


(3)自由・基本権との関係

・伝統的な類型論には基本的視点が欠けるとの批判があること。

・基本的視点

⇒不当介入の禁止 vs 基本権保護・支援-介入の正当化根拠という視角

※国家の基本権保護義務構想。

⇒過小保護禁止・過剰介入禁止や比例原則

・新たな類型の提唱


(a) 法令型公序良俗

(ア) 政策実現型公序良俗 法令の政策目的を重視 目的達成のための手段として の無効の不可欠性や比例原則。

(イ) 基本権保護型公序良俗 法令の基本権保護目的を重視


(b) 裁判型-基本権保護型公序良俗 

(自己決定権・契約の自由などを広く取り込む。)


(4)90条の形式的分類―特に動機の不法

①法律行為の中心的目的そのものが公序良俗に反するもの

※たとえば、犯罪を犯すことを目的とする契約。

②法律行為の中心的目的は不当なものではないが、それを法律上強制することによって公序良俗に反するもの

※たとえば、多額の違約金を定めて、営業をしないこと。

※芸娼妓をすることなどを強制する契約。

③金銭的利益と結合するために公序良俗に反するもの

※たとえば、公務員が賄賂を得て正当な職務を行う契約。

④条件を付するために公序良俗に反するもの

※犯罪行為をすること

※犯罪行為を思いとどまることを条件として金銭を与える契約(132条)

⑤動機の公序良俗に反するものである


かいひろし法律の部屋

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