刑法のお勉強 第11日

※近代学派にみられる刑法理論

1、19世紀の中ごろから終盤までの社会と経済の急激な変化は、社会に著しい犯罪の増加をもたらすことになる(今ある現状よりは、ましと思われるが…)。

⇒そして、理性的な人間像を前提に考え、犯罪や刑罰を観念的に唱える古典主義への批判となり、実証的なる方法により犯罪をとらえて対処しようとする近代学派が登場することになる。

2、この代表が、伊の精神科医であったチェーザレ・ロンブローゾであり、彼は人間の身体的特徴と犯罪を結びつけて「生来的犯罪人説」を唱えて、多くの批判を受けたが、「犯罪の抑止には市民革命的な自由意思における心理強制が期待できない」とする主張は、現実社会における犯罪現象の解釈としては、説得力を有するものであったといえる。

3、この人類学に犯罪起因を求める方法《生来性犯罪者・慣習犯罪者・機会犯罪者⇒犯罪者の人間性で区分する》(「犯罪人類学という」)は、フェリやガロファーロらに引き継がれていき、「イタリア学派」や「実証学派」に発展することになる。一方、ドイツのリストは生物学的視点に社会学的視点をプラスして、さらにその視点に目的主義的思想を加え、近代学派の理論を完成させることになる。

4、リストは「イタリア学派」の生物学的観点のみからみる犯罪原因説を否認する一方、フォイエルバッハ同様、ベンサム・イェーリングの社会功利主義的目的思想を継承して、刑法における目的思想を重要視するようになる。

⇒彼は刑法の応報刑化という意味に反対し、法益保護と法秩序の維持を目的として、社会を犯罪行為から防衛しながら犯罪者による再度の犯罪を予防することを重要視することになる。

5、リストは犯罪を行為ではなく、その行為を行う者の問題と捉えて、犯罪の原因を社会的要因と個人的要因の二つに分けて考えたことである。

⇒前者は政府の社会政策で、後者は個々の刑事政策で解決に導いていくべきであると主張しているのが特徴である。

⇒これに対し、客観的に把握できない主観的な要素では、刑罰が左右されることになり罪刑法定主義が否定されかねないという主張には、刑事政策が刑法とその諸原理を超越することは許されないとして、無原則な刑事政策を否認している点である。


※理論の概要をみると

・刑罰権の主体となる国家を、政策的任務を負った社会的法治国家と規定していること。

・人間の自由意志を否定して、犯罪を行為者の素質(生まれ持った性格)と(環境)から生じる必然的な現象とするもの(意思決定論)。

・犯罪行為は犯罪者の反社会的性格の表れであるとするもの(犯罪徴表説)。

・問題となるのは、行為そのものではなく行為者自身であること(行為者主義)。

・犯罪の観念は行為者の反社会的性格・動機などの主観的側面より理解するとする

(主観主義)。

・刑法上の責任は、反社会的な危険性を持つ者が、社会が自己防衛するために一定の措置を感受すべき立場にいると考えること(社会的責任論)。

・刑は応報・報復ではなく、行為者の反社会的な性格を改善するための措置

である(改善刑論・教育刑論)。

・刑は、行為者の再犯予防を目的とする(特別予防論)。

・刑によって、社会を犯罪から防衛することが可能となる(社会防衛論)。

・危険性を前提とした保安処分は刑罰とは性質を同一とし、相互に代替手段とすることが可能であるとする(一元論)。


※刑事人類学派

・「新ロンブローゾ学派」といわれるもので、犯罪人類学を基礎とする学派である。

⇒犯罪人類学は「遺伝的見解」そして「生物学的特長」を元に犯罪との関連性を究明したが、犯罪生物学派はそれをより発展し、遺伝的要因に踏み込んで新しい概念を創出したものである。


※刑事社会学派(刑事犯罪学派)

・刑事犯罪学派は20世紀の初めに成立して、犯罪の原因について、生物学的関心から究明しようとするものではなく、「刑罰をより効率的に執行」するために究明するところから始められたものである。

⇒この刑事犯罪学派は、犯罪生物学派と正反対の立場を採り、生来犯罪人説を否定して、内的要因ではなく、「社会学的な外的犯罪要因論」を確立することになり、《累犯者、初犯者の別、偶発犯、計画犯罪の別など》のように犯罪者を分けて、その傾向に適応した刑罰を科すべきだと主張するものである。この学派が発展するようになり、今日の刑事政策が派生している。


かいひろし法律の部屋

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