刑法のお勉強 第9日

※刑法の効力

1 刑法の時に関する効力

1、刑法(広義の意味)は、その施行の時から廃止に至るまで効力を有し、これに違反する行為に対して適用される。

⇒問題とされるのは、行為時における法律(行為時法)と裁判時における法律(裁判時法)とが異なる場合にどちらの法律を適用すべきかということである。

(1)行為時法によれば犯罪でなかった行為が、裁判時法によって犯罪となった場合には、裁判時法は適用されず、無罪となる。

⇒これは、行為時に適法であった行為は、事後の法律によって処罰されないという罪刑法定主義に基づく原則となる。

(2)行為時法によれば犯罪であった行為が、裁判時法よれば犯罪でなくなった場合には、処罰する必要性の欠如から法律の改廃が行われた以上、処罰する必要性が無くなるために、免訴とされる。

⇒ただし、いわゆる限時法(有効期間を定めて立法された法令)の場合、「廃止前の行為に対する罰則の適用においては、なお従前の例による」といった特別の規定が設けられてい

るかぎり、旧法は追及して行為は有罪となる。

(3)行為時法によれば犯罪であった行為が、裁判時法によっても犯罪である場合には、旧法と新法で刑罰に違いのみられない場合には、新法に従って処罰が為される(刑罰法規不遡及の原則)。

⇒旧法と新法で刑罰に違いのみられる場合で、裁判時に、刑罰が軽くなった場合には、新条文に従って処罰が為されることになる(刑法6条規定)。

※このほか、裁判時に刑罰が重くなった場合には、旧条文を適用し処罰を行うこととなる。これは、罪刑法定主義に則り、新法は遡及効をもたずに、事後法による処罰は禁じられるが、刑罰が軽くなった場合に限っては、被告人の利益となるので事後法が適用される例外事例となる。

・・・・・

 第6条(刑の変更)

犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。


2 刑法の場所に関する効力

1、日本の刑法がどのような場所で行なわれた犯罪に対して適用されるかという問題である。日本の刑法は、属地主義を原則としており、保護主義および世界主義を例外として認めている。

①属地主義

1、属地主義とは、自国の領域内で犯された罪に対して、犯人の国籍を問わずに、自国の刑罰法規を適用する法主義をいう。

⇒日本国内のみならず、日本国外にある日本船舶または日本航空機内において罪を犯した者にも、日本の刑法が適用される(旗国主義という)

2、犯罪地が日本の領域内であるためには、犯罪構成要件に該当する事実の一部が日本国内にあれば足りるとする。

⇒構成要件に規定する行為、結果、その間の因果関係の経過する中間影響地のいずれが日本国内であれば日本の刑法が適用されることになる。

3、共犯については、

①共同正犯の場合、その一人の犯罪地が国内であれば、他の共犯者の犯罪地も国内となる。

②教唆犯・従犯の場合に、教唆・幇助がなされた場所が国内である場合に加えて、教唆・幇助が国外でなさたときも、正犯者の犯罪地が国内であれば、国内犯になる。

※ただし、正犯にとっては自己の犯罪地だけが犯罪地である。

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第1条(国内犯)

1、この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

2、日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。


②保護主義

1、保護主義とは、犯人の国籍及び犯罪地を問わずに、自国または自国民の法益を保護するのに必要な限りにおいて、自国の刑法を適用する建前のことをいう。

① 日本国外で、日本国の重要な国家的法益または社会的法益に対する罪を犯した者にも、刑法が適用されることになる。

② 日本国民に対して一定の重要な罪を犯した者にも、刑法が適用される。

③ 日本の公務員が国外において日本国の公務を害する一定の罪を犯したときにも、刑法が適用される。

【解説】

※日本の公務員についての国外犯であるが、これは日本国の公務を保護するためのものであり、属人主義ではない。したがって、本条は公務員に限って適用する趣旨であり、公務員以外の日本人の共犯には適用がないことになる。

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第2条(すべての者の国外犯)

※この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。

1. 削除

2. 第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪

3. 第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患援助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪

4. 第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪

5. 第百五十四条(詔書偽造等)、第百五十五条(公文書偽造等)、第百五十七条(公正証書原本不実記載等)、第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪

6. 第百六十二条(有価証券偽造等)及び第百六十三条(偽造有価証券行使等)の罪

7. 第百六十三条の二から第百六十三条の五まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪

8. 第百六十四条から第百六十六条まで(御璽偽造及び不正使用等、公印偽造及び不正使用等、公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第百六十四条第二項、第百六十五条第二項及び第百六十六条第二項の罪の未遂罪


③属人主義

1、属人主義とは、犯人が自国民である限りにおいて、犯罪地の内外を問わず刑法の適用を認める建前をいう。

2、3条に列挙された犯罪には、社会的法益又は重要な個人的法益に関する罪がある。暴行罪・侮辱罪・単純横領罪・盗品等無償譲受罪・過失犯等の、軽微な罪は除かれていることに注意を要することになる。

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第3条(国民の国外犯)

※この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。

1. 第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪

2. 第百十九条(現住建造物等浸害)の罪

3. 第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪

4. 第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第二項の罪の未遂罪

5. 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)、第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪

6. 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪

7. 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪

8. 第二百十四条から第二百十六条まで(業務上堕胎及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪

9. 第二百十八条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る第二百十九条(遺棄等致死傷)の罪

10. 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪

11. 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪

12. 第二百三十条(名誉毀損)の罪

13. 第二百三十五条から第二百三十六条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)及び第二百四十三条(未遂罪)の罪

14. 第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪

15. 第二百五十三条(業務上横領)の罪

16. 第二百五十六条第二項(盗品譲受け等)の罪


④世界主義

1、世界主義とは、国際社会が共同して対処しなければならない行為(テロ等)について、何人がどの地域で犯したか、また自国の利益の侵害を伴うか否かにかかわらず、自国の刑法を適用する原則をいう。

2、日本国外で刑法の各則の罪が犯されたときでも、条約により日本国で処罰すべきものとされたものを犯したすべての者に刑法は適用されることになる。

3、これは、条約で国外犯の処罰が義務づけられた犯罪について、いちいち列挙することの煩雑さを避けること、かつ、将来の条約締結上の便宜をも考慮して、包括的(すべてを含むという意)に刑法の適用を認めておこうとするもの。


3 刑法の人に関する効力

1、日本の刑法は、原則として、時および場所に関する効力の及ぶかぎり、犯罪を行ったすべてのものに対して適用されることになる。

⇒ただし、次の場合は例外的に日本の刑法に適さない。


(イ)国内法上の関係からするもの

1、天皇に明文の規定はないが、摂政は、その存在中訴追されないことになっており、それとの関係で、退位のない天皇については終身訴追されることがないと解される。

2、国会議員は、議員で行った演説・討論・表決について院外で責任を問われることがなく、また、国務大臣の場合は「その在位中、内閣総理大臣の同意がなければ、追訴されない」という保障がある。


(ロ)国際法上の関係からするもの

 ①外国の君主、大統領、その他の家族および日本国民でないその従者。

 ②信任された外国の大使・公使・附属員その家族、および日本国民でない雇員・従者。

 ③承認を得て我が国の領土内にある外国軍隊の構成員または軍属。


かいひろし法律の部屋

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