刑法のお勉強 第7日

4 罪刑法定主義の内容

※罪刑法定主義の内容は、形式的根拠と実質的根拠に対応させて、形式面と実質面とからその内容を考察することができる。

(1)形式的内容

1、罪刑法定主義の形式的根拠に基づくものとして、その中心となるものが法律主義と事後法の禁止である。


(イ)法律主義の意義

1、憲法31条が規定されるところであり、犯罪と刑罰を形式的意味の法律で定めるべきであるとする原則をいう。ここから、次のふたつの派生原則が導かれる。


(a)罪刑成文法主義

1、犯罪と刑罰は「成文」の法律をもって定められなくてはならないとするものである。

⇒それゆえ、不文法である慣習法は刑法の直接の法源とはなりえない(慣習刑法の排斥)。

2、もっとも、個々の構成要件の解釈に際し、社会生活上の慣習または一地方にある慣習法を顧慮することが不可欠な場合がある。

⇒たとえば、水利妨害罪において妨害の対象となる水利権であるが、多くの場合は、慣習によって認められている。


(b)国会制定法主義

1、法律主義にいう「法律」は、原則として、直接国民の代表の手になる国会制定法でなければばらない。もっとも、これには三つの例外があるとされる。


①政令に厳罰が設けられる場合であり、憲法は、法律の特定委任(具体的処罰の範囲の特定)がある場合に限ってこれを認めている。

②普通地方公共団体の条例に罰則が設けられる場合である。

⇒条例は、住民の代表者である地方議会の議決によって成立するものであるので、「法律」と同様、議会制民主主義の要請を満たしているが、いわゆる公安条例などにみられるように、憲法をはじめとする諸法律の趣旨に反する疑いのあるものも少なくない。

③犯罪成立要件の細かな部分を、法律以外の下位規範に委ねている白地刑罰法規の場合である。

⇒この場合でも、法律自体が処罰されるべき行為の輪郭を一応示していることが必要であり、まったくの白地委任は委任の特定性を欠く点で違憲の疑いがあるとされる。


【判例】

※猿払事件(最大判昭49.11.6)

・猿払村の郵便局員Xは、衆議院議員総選挙の際に、自分の所属する組合が推薦する候補者の選挙用ポスターを掲示板に貼りつける。また他の人に貼るように頼んで配布したりもした。勤務時間外に行ったポスター貼りであった点が、国家公務員の政治活動を禁止する国家公務員法102条1項違反として起訴された事案である。


【判旨】

※公務員の政治活動の禁止によって、行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の利益に他ならない。

したがって公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治活動を禁止することは、それが合理的でやむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるとする。

⇒処罰規定…「法律自体が、処罰される行為の輪郭を一応特定している」(合憲)


(ロ)事後法の禁止

1、実行の時に適法であった行為について、その後に定められた法律に基づいて刑事責任を問うことを禁止する原則である。

※憲法も明文でこれを定めている(39条)。

行為当時に犯罪とされていたものについて、後の法を基に重く罰することも、同様に禁止される。刑事実体法に関する原則であって、刑事手続法や民事法にはこの原則は及ばない。


(a)刑罰法規不遡及の原則

1、刑罰法規不遡及の原則とは、刑罰法規がその施行されたあとの犯罪に対して適用され、施行前の行為には適用されないという原則である。これは、憲法の39条の規定するところである。

・・・・・

憲法第39条

 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。


※遡及処罰

1、実行時に適法であった行為を事後に定めた法令によって遡って違法とし処罰すること、ないし、実行時よりも後に定められた(実行時点での罰則よりも)厳しい罰に処すことを禁止した、大陸法系近代刑法における原則。事後法の禁止、遡及処罰の禁止、法律不遡及の原則ともいう。


(b)刑の変更

1、刑法6条は、「犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる」と規定している。

①行為時法より裁判時法の方が刑が重くなった場合に、重い刑罰の遡及を禁止して(軽い刑罰の追及)、反対に、

②行為時法より裁判時法の方が刑が軽くなった場合には、軽い刑罰の遡及を認め(重い刑罰の不遡及)、事後法禁止の例外を設けることによって罪刑法定主義の精神をさらに拡充している。


(c)判例の不遡及的変更 ※重要

1、判例が被告人の不利益に変更された場合、刑罰法規と同様、遡及処罰を禁止すべきかどうかは一個の問題であるとする。

⇒判例が刑法の法源となり得ないことを理由に、判例の不遡及的変更を否定するのが一般的であるのだが…。

2、最高裁も、「行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっても、これを処罰することは憲法39条に違反しない」としている。

3、この意味で、判例に固有の意味での法源性を認めることは、法律主義の原則に照らして許されないとしても、判例が時に国民の行動の準則として機能していることも事実である。

4、このような状況を踏まえて、被告人の予測可能性を保障するという見地を考えると、被告人の不利益に変更された判例による遡及処罰は禁止すべきであるとするものである。

※次の時間は類推適用の禁止から。


かいひろし法律の部屋

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