刑法のお勉強 第4日

第三章 罪刑法定主義

1 意義

※ある行為を犯罪であるとするためには、その行為が行われる前に法律によって、その行為は犯罪であると明確に規定し、それに対する刑罰の種類と刑の重さを規定していなければならないとする原則である。

⇒この原則を表す標語が「法律なければ刑罰なし」というものである。この言葉は、フォイエルバッハによって作られたもの。


※罪刑法定主義の中心は、罪刑法律主義ですが、その他に派生原則として、遡及処罰の禁止、類推処罰の禁止、絶対的不定期刑の禁止、明確性の原則といった原則が認められている。

【参考】

1. 罪刑の法定主義(慣習刑法の禁止,絶対的不定期刑の禁止)

2. 明確性の原則

3. 内容の適正の原則(罪刑の均衡)

4. 類推解釈の禁止

※類推解釈は許されませんが、言葉の可能な意味の範囲内で、言葉の日常用語的意味より広く解釈するという拡張解釈は許されるとする(通説)。


※「遡及処罰の禁止」

①原則

※遡及処罰の禁止とは、刑法はその施行の時以後の犯罪に対して通用され、施行前の犯罪に対し、遡って適用されることはないという原則をいう。

⇒要するに、行為の時に適法であった行為が後に成立した法によって処罰されると、法的安定性を害すので、個人の自由を不当に害し、個人の自由を不当に侵害するおそれがあるからである。

②例外

※犯罪の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。

⇒これは、犯罪行為後、裁判までに法律の改正があり、法定刑が軽くなった場合には、軽い新法について遡及適用を認めるというもの。事後法の遡及適用を認める点で罪刑法定主義の例外規定といえます。

※この意味は、罪刑法定主義が行為者の利益のための原則であるため、軽い新法を適用することは、行為者の利益になるので、罪刑法定主義の意味には反しないと考えられているからである。


A 犯罪後

※犯罪後とは、実行行為の行われた後をいう。結果が行為になって発生する場合でも結果発生時は基準とならず、実行行為時が基準となる。

⇒実行行為が、法律の変更された時点の前後にまたがる場合、単純一罪・包括一罪、継続犯・結合犯については、当然に新法を適用する。牽連犯については、全犯罪に関して新法の適用がある。


B 法律

※法律とは、刑法に限らず、広く特別刑罰法規、政令その他の命令を含む。法律は裁判時に施行されているものであることを要する。

⇒法律の改正により罰則を廃止するに際して、廃止前に行われた行為については廃止後も処罰する旨の規定を設けても罪刑法定主義に反すことにはならない。

(行為時には刑罰法規がなお存在しているからである。)

※なお、行為時法と裁判時法との間に中間時法があり、それぞれに刑の軽重が認められる場合には、その中間時法に対しても6条を適用し、最も軽いものを適用することになる。


C 刑の変更

※刑の変更とは、刑を加重し、または軽減するための変更をいう。

① 主刑の変更をいい、付加刑である没収を含まない。

② 刑とは、犯罪に対する制裁である刑のことをいうから、刑の時効・公訴の時効・親告罪としての性質の変更は、刑の変更ではない。

③ 刑の執行猶予の条件に関する規定の変更も、特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量を変更するものではないから、刑の変更とはいえない。

④ 労役場留置は、財産刑の執行方法の一種であって形式的には刑の変更そのものではないが、実質上刑の変更と同視されるので、その期間の変更があったときは、刑法6条の精神にのっとり軽い刑が適用されることになる。

⑤ 罰金は拘留よりも重い。主刑の軽重は9条に定められた順序による。


※「慣習刑法の禁止」

※慣習刑法の禁止とは、犯罪と刑法は法律の形式により明文で規定することを要し、刑法の法源として慣習法を認めないとする原則をいう。

⇒すなわち、慣習や条理を根拠として処罰してはならないということである。

※ただし、慣習や条理が、刑法上、全く意味を持ちえないということではく、刑法を解釈するにあたり、内容の理解や判断の根拠として、慣習や条理が意味を持つことはありうるとする。

例) 不作為犯における作為義務の発生根拠を、慣習や条理に求めることがある。


※「類推解釈の禁止」

① 類推解釈

※類推解釈とは、法規を超えた事実についてそれに類似する事項について定めた法規を適用することをいう。

⇒刑法において類推解釈をすることは、法律が本来予想している範囲を超えて刑法の適法を認めることになるので、罪刑法定主義に反し許されない。

※ただし、行為者の利益になる場合の類推解釈は罪刑法定主義に反するものではなく、自由に許される。


② 拡張解釈

※類推解釈は禁止されるが、拡張解釈は許される。

⇒個々の事案にについて、刑罰法規を適用していくには、裁判官によって解釈による補充がなされることは当然必要となるからである。

※ここで、拡張解釈とは、法律の予定する範囲内でその用語を通常の意味よりも広く解釈することをいう。(拡張解釈が許容された例としては、公文書偽造罪における「文書」に写真コピーが含まれるとした判例がある。)


※「絶対的不定期刑の禁止」

 1、絶対的不定期刑とは「~した者は刑に処する」というように刑種と刑量をともに法定しない場合、及び「~した者は懲役に処する」のごとく刑種だけ法定しても、軽量を法定しない場合の法定刑のことをいう。

 2、絶対的不定期刑は、刑罰を法律で定めることを要求した法律主義に反するので禁止される。

 3、刑種と刑量をともに相対的に法定したものは、相対的不定期刑として許されている。


※「刑罰法規適正の原則」

※刑罰法規適正の原則とは、刑罰法規に定められる犯罪は、当該行為を犯罪とする合理的根拠があるものでなければならず、刑罰は、その犯罪に均衡した適性なものでなけれればならないとする原則をいう。

⇒犯罪と刑罰が法律に定められていても、その内容が処罰の合理的根拠を欠くときは刑罰権の濫用となり、実質的に国民の人権を侵害することになるからである。

※この原則には、明確性の原則と、罪刑の均衡とが含まれる。


① 明確性の原則

※明確性の原則とは、立法者は刑罰法規の内容を具体的かつ明確に規定しなければならないとする原則をいう。

⇒刑罰法規の内容が不明確で漠然としているため客観的に把握できないときは、その法規は罪刑法定主義から許されず、憲法31条に違反するので無効となる。

※ある刑罰法規があいまいで不明確のゆえに、憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解範囲において、具体的な場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決めることになる。


② 罪刑の均衡

※罪刑の均衡とは、刑罰は犯罪に均衡したものでなければならないという原則をいう。

⇒犯罪と刑罰とが著しく均衡を欠き不相当な法定刑が規定されているときは、その刑罰法規は憲法36条または31条に違反しているので無効となる。


※総則規定の適用

※刑法犯以外でも、特別の規定がない限り刑法総則の規定が適用される。

⇒刑法以外の刑罰規定であっても、それが改正され刑が軽くなったときは、刑法6条の適用により、行為後の軽い新法が適用されるというものである。

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