憲法のお勉強 第29日

4 平等違反の違憲審査基準  

・「平等」が相対的平等を意味する以上、合理的差別は許される。

⇒では、合理的取扱いと不合理な差別との区別をいかにすべきかという問題。

※思うに、その区別は民主主義ないし個人主義の理念に照らして不合理といえるか否かによって決すべきとする。  

・憲法14条1項後段の列挙事由の差別は、民主主義の理念からすると、 原則として不合理なものであるから、厳格審査基準によるべきとされる。

⇒この厳格審査基準は、立法目的が必要不可欠なもので、目的達成の手段が必要最小限度のものでなければならない。 

・経済的自由権については、「積極目的規制であれば合理性の基準」であり、「消極目的規制の場合は厳格な合理性の基準」によるべきと考えられる。 


【参考】  

・「法の下の平等」が立法者を拘束し、相対的平等を意味するという点で争 いはないが、次に問題になるのは、いかなる場合が「合理的な区別」であるか。 

⇒そこで、個々の法律や行政処分が憲法に違反しないか、その目的と目的 達成手段を審査するための審査基準が必要となる。

※審査基準を選択する上 で参考になるのは

⇒14条1項に定めている後段列挙事由(「人種、 信条、性別、社会的身分又は門地」)である。 

※この後段列挙事由は特に典型的な差別であり、その意味で原則として厳格基準が妥当する、という見解もある。しかし、差別的取扱いの態様や他に侵害される人権(精神的自由権か経済的自由権か、等)をも考慮に入れねばならなくなり、一概に後段列挙事由にあたるから厳格基準が妥当する、とも言い切れなれなくなる。 

※たとえば、議員定数不均衡問題は後段列挙事由にあたらない「地域によ る差別」であるが、参政権(15条)という民主主義の根幹を支える権利の 侵害が疑われるから、厳しく審査する必要があるといえるのである。 

※以下の三類型は便宜上の区別であり、裁判所の判断が必ずしもこれに則っているわけではないことには注意を要す。

 

※厳格基準 

・立法目的が必要不可欠であり、達成手段がやむをえない必要最小限度のも のであることを要するとする基準である。

⇒最も厳しい基準であり、当該立 法には違憲性の推定が働く。 


※厳格な合理性の基準 

・立法目的が重要であり、達成手段が目的との実質的関連性を有していなけ ればならないとする基準である。 

※実質的関連性とは事実上の関連性という意味であって、関連性が単に論理 的に説明がつくというだけでは足りず、その立法が実際に目的を達成する ための効果を有しているという立法事実の審査を必要とする。 


※合理性の基準 

・立法目的が正当であり、達成手段が目的との合理的関連性を有していれば 足りるとする基準である。 

※合理的関連性とは、説明原理としての論理的な関連性という意味であり、 立法事実をあげつらう必要はない。

⇒原則として合憲性が推定され、立法者の著しい裁量逸脱がみられない限りは合憲とされる基準である。 


5 平等の具体的内容 

(一)人種  

※定義  

1、人種とは、人間を皮膚の色や頭髪などの生物学的な特徴によって区分す る単位である。

  

※人種差別  

1、「人種差別の問題は、アメリカ合衆国の黒人差別問題に象徴されるように、深刻な政治的・社会的な争いを生むのが現実である。

⇒アメリカでは、公立学校における人種別 学制の違憲判決(1954 年)以降、1964 年の「市民的権利に関する法律」 等を通じて、積極的差別解消措置が強力に推進された結果、大幅に改めら れたが現代になってその問題がさらに顕著になり今の人種差別の問題はさらに露呈されている。 

2、人種による差別は、その合憲性がもっとも厳格な基準によって司法審査 される。

⇒もっとも、積極的差別解消措置の合憲性が争われる場合は、いわ ゆる逆差別の問題も生じるので、「厳格な合理性」の基準による。 

3、日本では、アイヌ人・混血児・帰化人が問題となるが、とくに注目され るのはアイヌ民族問題である。

⇒1899 年に制定された北海道 旧土人保護法がその存在意義を失ってしまったので、アイヌの文化の振興 とその伝統に関する知識の普及・啓発に関する新法が制定されている。 


(二)信条  

※定義  

・平等原則の歴史的由来からすると、ここにいう「信条」は、宗教上の信仰を中心とされるが、それに限らず思想上・政治上の信念・主義・意見など を広く含むとするのが通説の見解である。  


・判例を見ても、宗教上の信仰を意味することは明らかであるが、それにとどまらず、広 く 思 想 上 ・および政 治 上 の 主 義 を 含 む と 解 す べ きで あ る とされた。

( 最判昭和 30.11.22 )

⇒したがって、特定のイデオロギーを存立の条件とする傾向企業を除き、一般の企業が、たとえば共産党員もく はその同調者であることを理由として行う解雇は無効であるとされる。 


(三)性別  

・「戦前日本で最も甚だしかった性別による差別」

⇒1945年末に実現した 婦人参政権を経て、

①憲法を受けて行われた姦通罪(刑法183条)の廃止、 

②妻の無能力など婦人を劣位においた民法諸規定の改正

その婦人に対する差別が大幅に改められている。

※この男女同権は、その他多くの法律(国家公務員法27条、 働基準法4条など)や条約でも具体化されることになる。

⇒とくに、1981年発効の女子差別撤廃条約(1985年日本批准)は、国籍法の改正(1984)、男女雇用機会均等法の制定(1985)など同権を一層推進した点で注目されることとなる。 


【参考】  

・旧法における意味においては「血統主義」といっても、 「出生の時に父が日本国民」であることを要する、という父系血統主義を採っていた。

⇒しかし、国際結婚が急増して、たとえば沖縄などで父が外国人、母が日本人である場合の子どもに無国籍者が多く出ており、違憲訴訟が提起され深刻な社会問題にもなったので、改正法は、諸外国における男女平等の建前に向けての改正動向の高まりも考慮に入れ、女子差別撤廃条約に適合するよう、父または母のいずれかが日本国民であればよいという父母両系血統主義に改められた。

※これは明治32年制定の国籍法以来の大原則を変更した画期的な改正となっている。 


【参考】  

※労働関係における男女の平等  

・労働条件の面での男女の平等の取扱いについては、労働基準法が男女同一賃金の原則(4条)などを企業に課している。

⇒また採用については、昭和61 年に施行された男女雇用機会均等法によって女性の採用促進が図られている。 

・しかし、従来、女性は職場において男性と異なる取扱いを受けることが 多く(結婚退職制、昇格等での男女別コースなど)、これらを無効として争う訴訟が提起されて、「下級裁判所で次々に民法90条違反」として無効と判断されてきた。

⇒これは実質的には憲法14条違反で無効とされたのに等しいという意見もある。 

・一方で、労働基準法には、女性に対する特別な保護規定として

①時間外労働の制限(64条の2)、

②深夜業の制限(64条の3)、

③坑内労働の禁止(64条 の4)、

④妊産婦等の危険有害業務への就業制限(64条の5)のほか、

⑤産前産後の保護(65条、66条)、

⑥育児時間の保障(67条)、

⑦生理休暇の保障(68 条)

などが定められている。

⇒これらは、男女の肉体的差異に基くものとし て、必ずしも不合理とはいえないと考えられてきたが、近年は、これらがかえって女性の社会進出を妨げているとの見解も有力になり、1999年の改正男女雇用機会均等法の施行に伴って、時間外労働の制限(64条の2)と深夜業の禁止(64条の3)の規定は撤廃されている。 


(四)社会的身分・門地  

※社会的身分  

・社会的身分については、

①「生来の身分、たとえば被差別部落出身など」とか、

②「自己の意志をもってしては離れることのできない固定した地位」というように、狭く解する説と、

③広く「人が社会において一 時的ではなしに占める地位」と解する説(判例の立場である)、

④いわば両者の中間にあって、「人が社会において一時的ではなく占めている地位で、 自分の力ではそれから脱却できず、それについて事実上ある種の社会的評価が伴っているもの」と解する説がある。 

【論議】  

※14条1項を例示説と捉えた場合、その詮索はあまり意味がないことになる が、列挙事由に特別の意味を持たせる立場では範囲を明確にする必要があ る。 


【差別的禁止事由に当たる社会的身分に関する学説】  

※A説(狭義説) 

・ 「出生によって決定され、自己の意思で変えられない社会的な地位」 

(被差別部落出身・嫡出子か非嫡出子かなど) 


※B説(中間説)  

・「人が社会において一時的にではなく占めている地位で、自分の力ではそれ から脱却できず、それについて事実上ある種の社会的評価を伴うもの」  


※C説(広義説・判例) 

・ 「広く社会においてある程度継続的に占めている地位」  

批判:「非常に広くなって、各種職業や居住地域なども含まれることになっ て、憲法が何のためにとくに「社会的身分」による差別を禁止しているの か理由が疑わしくなる。」 


※D説 

・ 「社会において後天的に占める地位で一定の社会的評価を伴うもの」 

批判: 非嫡出子たる地位が「社会的身分」とはいえなくなり、「門地」で あると解する必要がでてくるため、そのために「門地」の解釈を相当広く せざるをえなくなる。

 

【重要判例】  

※非嫡出子相続分規定事件(最大決H7.7.5)  

【事案】

「家裁の遺産分割審判において、嫡出子と均等な相続を主張したが容れら れなかったので、相続財産について非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相 続分しか認めない民法900条4号但し書の規定は違憲無効だとして、高裁 に即時抗告(棄却)、さらに最高裁に特別抗告して争った事件である。

【判旨】

最高裁は、民法が法律婚主義を採用している以上、法律婚の尊 重と非嫡出子の保護の調整を図った右規定の立法理由には合理的根拠があ り、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1としたことが右立法理由との関 連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の 限界を超えたものとは言えず、憲法14条1項に反しない、と判示した。

【現在の判旨】

(平成25年9月4日最高裁判所大法廷)

・民法900条4号ただし書の規定の内、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分が憲法14条1項(法の下の平等)に違反し無効であるとする違憲判断を下している。


※門地  

・門地とは、家系・血統等の家柄を指す。

⇒広義では社会的身分に含ま れていると解することもできる。

※かつて明治憲法下で存在した華族・士 族・平民等はこれによる差別であり、このような制度の復活は現在は認められない。 

※なお貴族制度の採用も門地による差別にあたり許されないが、これにつ いては14条2項で別に明示的に定められている。

⇒現在、皇族に認められる 特別の地位は、形式的には門地による差別であるが、これは憲法が世襲の 皇位継承を認めることから許される例外であるとされる。 


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