憲法のお勉強32

学習テキスト

3 国家と宗教の分離の原則(政教分離の原則)

※「信教の自由と政教分離」


1、信教の自由の内容は前述のとおりだが、第20条はさらに、

①いかなる宗教団体も国から特権を受け、または政治上の権力を行使してはならないこと(第一項後段)、そして、

②国およびその機関は宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならないこと(第三項)など、

具体的な規定をおいている。

⇒これらの規定は信教の自由の保障を国家と宗教との間の制度的な関係において確保するため、いかなる宗教であるとを問わず、国家と宗教との分離すなわち「政教分離」の原則を定めたものである。


(参考条文)

第二十条

1 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

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【参考】

※政教分離(明治憲法下における日本の政教分離)

1、明治憲法下での政教分離は、

神社を「非宗教である国家の祭祀」という理論構成で回避させたことである。

⇒明治憲法は神権天皇制を前提としていたため、

皇祖皇宗を神として崇める神社神道(宮中神道と結合)と他の宗教を同列に扱うことは出来ないので、神社神道を祭祀のみの超宗教=非宗教として扱い、全国に広く点在している神社を国家祭祀の出先機関としている。


2、制度的にも当時の政府の状況は、神社神道と憲法28条との関係について、

「神社は宗教にあらず」という説明をして抵触しないと述べている。

※神社は、明治4年(1871年)5月14日に

「官社以下定額及神官職員規則等によって、

①神社はすべて国家の祭祀とされ、

②すべての神社は天皇の祖先神を祀ることになる。


3、伊勢神宮を本宗として、それ以下を官社(官幣社、国弊社)、諸社(府社、社、県社、郷社)に分ける社格制度を定める。

⇒なお、神職には官公吏の地位を与えて特権的地位を認めている。


4、そして明治15年(1882年)1月24日に

①神官の教導職兼補を廃して葬儀に関与しないとして、

②神社神道を祭祀に専念させて、祭祀と宗教を分離して宗教でないとした。

⇒明治憲法が制定発布された翌年の1890年10月に教育勅語が発布されることになる。

※その後「御真影」(天皇・皇后の写真)が各学校に下賜されるようになり、文部省令によって「教育勅語」の朗読と「御真影」に対する礼拝を強制。


5、いうなれば、明治国家は「明治憲法を聖典、教育勅語と御真影を祭具として有する」ことで始めて成立しえた宗教国家であったことになる。

※明治憲法公布後、宗教教育との問題では

明治32年(1899年)8月3日に文部省は、私立学校法を公布して公認の学校で宗教教育を行うことを禁止。

⇒このことによって、青山学院や明治学院では中学の資格を返上し、立教中学は寄宿舎でキリスト教教育を行うこととし、同志社では普通学校を設立してこの問題を回避した。

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※政教分離の原則の根拠

① 宗教の世界は本質的に国家から無関係でなければならない。

⇒信仰の問題は個々の人間の内心・精神における究極的価値にかかわる問題であるからである。

② 宗教はその力の増大のために国家権力を利用してはならない。

⇒それは宗教を堕落せしめることになる。

③ 国家権力はその政治的目的のために宗教の力を利用してはならない。

⇒それは国家権力の絶対的神格化をもたらすとともに、反面、国家権力による宗教的圧迫をもたらす。

※明治憲法の体制がこれであり、国家の方向性を誤らせた。

④ 国家が特定の宗教を国家宗教として公認し、あるいは特定の宗教に特別の保護を与えてはならない。

⇒それは①②③に反するからである。


※「神道と政教分離」

1、明治憲法の下においては、神道は「宗教にあらず」とされ、その結果として、

①実際上は、神道が他の宗教とは異なる特殊な国教的地位を与えられていたこととなり、また、

②その結果、

信教の自由を保障していた第28条の下において、神道は他の宗教とは異なる特別の取扱いを受けた。

⇒そして神道がこのような特別の地位を有するものとされる根拠は神道の特殊性に求められていたことである。


2、すなわち、神道の信仰は天照大神にはじまる神々に対する信仰であり、その教義は天孫降臨の神勅に淵源を有する。

⇒そして、天皇はこの神勅を承けて皇位にあるがゆえに神格を有するものとされ、そこに統治者としての天皇の地位が宗教的に根拠づけられた。

※天皇は神道の祭主として祭祀をつかさどる。

⇒ここに、神道の祭祀と国政が一致するという「祭政一致」が、かつて、わが国の「国体」の根本をなすとされていたのは事実である。


3、神道はこのような意味で他の宗教とは異なり、

まさに「国の宗教」すなわち国教的な地位を認められ、この地位において、世界に比類のない日本国の「国体」を宗教的に基礎づけるものとされていた。

⇒また、わが国の指名はこの「国体」の原理または神道の神聖な教義を全世界に宣布することにあるとされていたこと、その意味で、神道の教義が国家主義あるいは軍国主義の宗教的・精神的基礎をなしていたともいうことができるのである。


4、連合国の日本占領政策において、1945年9月22日の「降伏後ニ於ケル米国ノ初期ノ対日方針」の中に、「宗教的信仰ノ自由は占領ト共ニ直チニ宣言セラルベシ。同時ニ日本人ニ対シ極端ナル国家主義的並ビニ軍国主義的組織及ビ運動ハ宗教ノ外被ノ蔭ニ隠ルルヲ得ザル旨明示セラルベシ」との項目があったことは、右のような神道の役割に鑑みたものであったというべきである。


5、そして、この項目が具体化されたのが同年12月15日の連合国総司令部の「国教の分離」の指令があったこと。

⇒この指令は、いわば「神道の国家からの分離、神道の教義からの軍国主義的・超国家主義的思想の抹殺、学校からの神道教育の排除」などを命じたものであるが、その具体的内容の骨子は次の諸点に見られる。


① 日本政府ならびにその管理は神道の教授・宣伝・統制などを公的資格で行うことを禁ぜられ、また神道の教義・行事・儀式・祭典・慣習などにおいて、軍国主義的・超国家主義的思想の宣伝は全面的に禁止される。

⇒さらに公的機関によって全面的ないし部分的に補助されている教育機関は、いかなる形態、方法によっても、神道教義を宣伝してはならないとされている。


② しかし、このことは神道各宗派の存在を否定するものではなく、また神社神道も、それが国家から分離されて政治的要素が払拭されれば、神道の一宗派を形成することができる。


③ 国費により、部分的ないし全面的に援助を受けている教育機関は神道教義についての教育を停止しなければならない。


④ 神社の管理・統制に関する法例は、撤廃され、神社を所管していた行政機関たる神祇院は廃止される。

※そして以上のほか、さらに神道の教義が否定されなければならない理由は、

その教義が

①日本の天皇はその祖宗および特殊な起源の故に、他の国の元首より優つている、

②日本国民はその祖先および特殊な起源の故に、他の国民より優つている、また

③日本の国土は、その神性および特殊な起源の故に、他の国の国土より優つていることなどを内容とするものであったことが挙げられていた。

※この指令はわが国におけるいわゆる「祭政一致」の原理、すなわち、神道の祭主としての天皇が同時に統治権の総覧者であるという原理の否定を意味しており、それはいわゆる「国体」の原理の排除を目指したものであったと考えることができる。

※このことについて、憲法第20条の規定が極めて具体的であることであり、なおかつ詳細であることは、この規定が直接には神道と国家との分離を命じたこの指令の趣旨を憲法自身にとり入れようとそたためであると解されている。

※このようにして、第20条は、特に神道の地位を根本的に変更させることになる。

※憲法第20条は、明治憲法下における神道の特殊な地位すなわち国家と神道との結合を完全に切り離したものであり、これによって神道の地位は根本的に変更されたといえる。

⇒しかし、第20条はひとり国家と神道との分離のみを定めたものではなく、いかなる宗教であるとを問わず、国家と宗教の分離の原則を定めたものである。

そして、この原則の下に、神道も他のすべの宗教と同じ地位に立ち、同じ扱いを受けることによって、その存立が認められるのである。


(一)政教分離の主要形態

※「第20条の定める政教分離の内容」

1、政教分離の原則が具体的にどのように定められているかは、各国の憲法においては、必ずしも一致してしない。

⇒たとえば、アメリカ合衆国憲法は「連邦議会は、国教の樹立を規定しており、または信教の自由な行使を禁止する法律を制定してはならない」と規定するのみであるが、立法および判例によって厳格な政教分離が確立されていきている。

※しかしながら、この政教分離の諸外国の思考には、聖書にしるされている神の降臨の統治を阻む意味が隠されている。


2、イギリスでは国教(アングリカン・チャーチ)が存在しているが、その下において国教以外の宗教に対して広汎な自由が保障されている。

※フランス1957年憲法は「フランスは非宗教的…な共和国である」と宣言している。

※また、イタリア1948年憲法は、「国家と教会との関係」について、「国家とカトリック教会とは、各自その固有の領域において、独立・最高である」とし、共通の領域にわたる事項については両者の協定(コンコルダード)によって規律するいこととしており、また、カトリック以外の宗派はすべて法律の前にひとしく自由であるとし、その国家との関係については「両者の代表者の合意に基づいて法律によって規律する」と定めている。

⇒これにしるされている「独立・最高」という言葉が大いなる高ぶりであり、神の怒りを買うことになるのである。


3、日本国憲法第20条の定める政教分離の内容は、これらのうち、アメリカに見られる厳格な、あるいは徹底した分離の形態であるということができる。第20条の内容は次のとおりである。

① 「いかなる宗教団体も国から特権を受けてはならない」 

※ここにいう「宗教団体」とは広く宗教上の組織体を指す。

⇒礼拝の施設を備える神社・寺院・教会・修道院などや、これらを包括する教派・宗派・教団・修道会・司教区などが含まれるほか、さらに信徒・信者などの団体をも含まれる。

※「特権」とは法制的・経済的・政治的からみて、一切の保護・優遇がこれに当たるが、神道に限らず、いかなる宗教団体についても他の団体には与えられない特権を与えることは認められない。

※たとえば、宗教団体であることを理由に特に免税すること、神社・寺院などであることを理由にその建造物の維持のための特別の財政補助を与えることなどは特権の賦与として許されない。

⇒ただし、文化財としての価値を理由として、他の文化財とともに神社・寺院などにもその管理・修理について補助金を交付することなどは、ここにいう特権の賦与には当たらない。

② 「政治上の権力を行使してはならない」との規定の意味は必ずしも明確ではない。

※すなわち歴史上、教会・寺院などが課税権・裁判権などの権力を行使したことがあるが、現代においてはこのような事例は予想されない。

⇒従って、ここにいう

「政治上の権力」とは、「政治的権威」の意味であり、特に過去における神道が政治権力と結合し、述べたように軍国主義的政策の宗教的基礎付けの機能を営んだことにかんがみて、政教分離の原則を明らかにするために、宗教団体が政治的権威の機能を営んではならないという趣旨を示したものと解される。

③ 「国およびその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」

※「国およびその機関」の「機関」とは、国会・内閣、裁判所のほか広く国の諸機関を指す。

⇒地方効用団体は、国の機関ではないとしても、本項の趣旨は当然に地方公共団体にも及ぼされるべきである。

※教育基本法は

「国および地方公共団体の設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない」と定めている

※ここに「宗教教育」を「宗教的活動」の例示として特に掲げているのは、明治憲法下、国が国立・公立学校をして神道の教義を弘布鼓吹する教育を行わせたり、神道に基づき神官を養成する国立学校を設置したことにかんがみたものである。

※ただし、特定の宗教のための教育ではなく、

宗教一般についての学理や人間生活・社会生活における宗教の意義などについての教育を行うことは本項の禁ずるところではない。

⇒教育基本法はこの点について「宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない」と定めている。

※その他の「宗教的活動」の範囲は極めて広い解釈がある。

⇒宗教教育以外の祈祷・礼拝・祝典・儀式・行事などがこれに含まれる。

※ここに宗教的活動の例示として「宗教教育」が挙げられている理由として、禁止される「宗教活動」は宗教の布教宣伝などの積極的な教化活動のみを指すものとし、単なる儀式・行事は含まないとする解釈は正当ではない。

⇒すなわち、ここにいう「宗教的活動」は、第二項の「宗教上の行為・祝典・儀式又は行事」とその範囲をひとしくし、それらをすべて包括するのである。

※従って、

国や地方公共団体が公的な式典として特定の宗教による儀式を行うことは許されないし、たとえば内閣総理大臣などが国の機関たる地位において特定の宗教施設においてその宗教による儀式として礼拝を行うことなども許されない。

⇒ただし、

宗教上の儀式・行事などであっても、その中には、発生史的には宗教的起源をもちながら、長年の間に社会的に習俗化したとみられるもの(豆まき・門松・クリスマスツリーなど)があり、これらの行事などを行うことはここにいう「宗教的活動」には当たらない。

※これらの点が後に挙げる多くの事例において、禁止される「宗教的活動」の範囲として問題とされることとなるのである。


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