民法論文を書いてみた 第1日

今日のテーマ (行為能力)

【問題】

18歳のAは、自己が未成年であることを黙秘して、法定代理人の同意を得ずして自己の所有物をBに売却してしまった。その後BはCにその物を売却した。

この事案において、Aが売買契約の取り消しを主張した場合における当該物の所有権の帰属について、Aによる取消の主張がB・C間の売買の前である場合と、後である場合とに分けて論ぜよ。


1 法定代理人の同意の有無

1 本問では、AはBに対し自己の所有物を売却しているが、Aは18歳であり、未成年者にあたる(3条)ことから、法定代理人の同意がなければ、原則としてBとの売買契約(555条)は取り消すことができる(4条2項)と解される。

そして、取消の遡及効により(121条本文)、当該物の所有権はAに復帰することになると思われる。

【参考条文】

555条(売買)

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

121条(取消しの効果)

取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。


2 未成年者であることの黙秘について

2 本問のAは、自己が未成年であることを黙秘して売買契約をしている事実が「詐術」を用いて(20条)にあたるため、取消権を失うのではないかという問題がある。


(1)そもそも民法規定20条の趣旨は、詐術を用いるような無能力者は、相手方の犠牲の下に保護する必要がないとの価値判断である。

したがって、かかる20条の趣旨から見るのであるならば「詐術」を用いた場合とは、もはや

無能力者ととして保護するにあたらない場合をいい、単に無能力者であることを黙秘していたことだけを理由にして、判断により詐術ということはできないのである。

(2)よって、本問のように単に無能力者であることを黙秘しただけで「詐術」にあたるとするのは相当でないと思われる。したがって、Aは取消権を失わないことになる。

【参考判例】

(判例)

最判昭44.2.13

無能力者であることを黙秘するのみでは民法20条にいう「詐術」にあたらないが、無能力者の他の言動などと相まつて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには「詐術」にあたる。


3 当該物を譲りうけている事の可否について

3 しかし、本問での状況では第三者Cの存在があり、Cは当該物をBから譲り受けているという意味合いがある。この場合、Cの取引の動的安全とAの静的安全の調和が問題となる。

以下、目的物が動産と不動産の場合に分けて検討してみたい。


【問題定義】

1 目的物が不動産の場合

1 まず、BC間の売買の後に、AがBとの売買契約を取消した(4条2項)ときの場合、取消の遡及効により、A・B間の売買契約は遡及的に無効となる。

⇒そして、96条3項のような第三者保護規定がない以上、常に所有権はAに帰属することになる。

2 次に、B・C間の売買の前にAがBとの売買契約を取消した場合においても、無能力者制度の趣旨を行使すべきと思われる。

しかし、これは取消権とは異なり、取消後の場合には、たとえば相手方名儀の登記を放置しておく等、未成年者が虚偽の外観を作りだすことがあり、かかる場合においても、未成年者を一方的に保護することは、第三者の取引の安全を著しく害することになる。

そこで、かかる帰責事由ある未成年者と第三者の利益の調和を図る必要があると思われる。


(1)この点、判例は「取消しによる遡及的無効となる際に、復帰的物権変動があったものとして、第三者と取消権者は対抗関係となり、登記を先に経由した者が優先されるとする。

しかし、取引前の第三者との関係では取消しによる遡及効を徹底して、取消後については復帰的物権変動があるとするのは、論理だけが先走り、そのうえ一貫性を欠くことになるので、妥当ではないと思われる。


(2)そこで、本来は意思表示の規定であるが、外観信頼保護規定である94条2項の類推適用をするべきであるように考える。

⇒いわば、取消権者が登記という虚偽の外観を放置していたという帰責性がある場合に、第三者がかかる外観を信頼して取引に入った場合には、これを保護すべきであると考えるからである。

そして、他の外観法理との均衡上、善意に加えて無過失まで必要とされるが、登記は不要であるというべきである。

(3)よって、本問でも、Aが取引後も登記を回復せず、放置しておいた場合において、かつその外観を善意無過失で信頼したCが取引に入った場合には、94条2項の類推適用によって、Cには保護があり、所有権はCに帰属することになる。


【問題定義】

2 目的物が動産の場合

1 まず、Aの取引の主張が、B・C間の売買契約の前に行われた場合には、不動産と同様、96条3項のような第三者保護規定はない以上、常にAが4条2項で保護され、所有権はAに帰属すると思われる。

しかし、動産の場合には、占有に公信力が認められるので(192条)、即時取得の成否を考える必要があるのである。

(1)いわば、取消によってA・B間の取引は遡及的に無効となる以上、契約が最初から無効である場合と区別する理由はないのであるから、即時取得の適用を認めるべきであると思われる。

⇒ただし、これには善意無過失の対象は、取引時においては一応相手方は権利者である以上

、通常と異なり、取引原因の存在である。


(2)もっとも、192条(即時取得)の適用の余地があるとしても、だれに占有がある場合においてもCは保護されるのかという問題が浮上する。

⇒これについて「占有」の意義について占有改定(183条)が含まれるかが問われることになる。

思うに、原所有者と第三者の対等な保護という見地からは、占有改定のみで足りるとすると原所有者が常に保護されないことになるし、占有改定は含まれないとすれば、原所有者が第三者に自己の存在を通告して悪意にすれば常に保護されないことになって、これは妥当ではない。

よって、占有改定も「占有」に含まれるが、確定的でなく、現実の引渡によって確定的となると解する。


(3)結局結論をいえば、Cは、Bより引渡を受けていればもちろん、Bがいまだに占有している場合でもAより先に現実の引渡を受けていることにより当該物の所有権を得ることになることになる。

2 次に、Cが取引に入ったのがAの取消後である場合にも、占に公信力がある以上、不動産の場合と異なるので、94条2項の類推適用ではなく、192条の直接適用にて保護される。

そして、占有改定と即時取得については、1で述べたところであるので、Cは、自己の占有がある場合はもちろん、Bにある場合でもAより先に現実の引渡を受けることにより、確定的に所有権を取得することになる。

以上

【参考条文】

183条

代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。


192条

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

かいひろし法律の部屋

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