憲法のお勉強 第21日

※外国人の人権享有主体性の続き

② 社会権

【問題の所在】

 外国人に社会権が保障されるかが問題となる。

【結論】

※外国人が、社会権を享有するかどうかにおいて、学説では、次のような見解が見られる。


a禁止説

※外国人に対する社会権の保障は、その人の所属する国家によって実現されるべきであり、外国人を当然に保障すべきものではない、とする見解がある(通説)。


b許容説

※社会権は、その所属する国家によって実現されるべきであるが、参政権とは異なり、「外国人に対して社会権の保障を及ぼすことは、原理的に排除されるものではない」とする主張がある。

⇒国の限られた財政事情等から、社会権の保障に関しては、国民を優先することも許されるが、立法により、「一定の外国人に享有を認めることは、むしろ望ましい」とする。

(この見解からさらに進んで、社会権の保障に関して、国籍を問わない見解もある)

※我が国に居住し、国民と同様の負担を担っている外国人は、社会の構成員であり、社会権が保障されると主張するものである。


(c)入国の自由

【問題の所在】

 ※外国人には入国の自由が憲法上保障されているかが問題となる。


1、入国の自由

【否定説】

※国際慣習法上、外国人には、入国の自由が保障されないと解される。

⇒「国際法上、国家が自己の安全と福祉に危害を及ぼすおそれのある外国人の入国を拒否することは、国家の主権的権利に属し、入国の拒否は国家の自由裁量によるとされている」からである。

※したがって、入国を許可するか否か、いかなる条件の下に許可するかについて、国家は、原則として自由に決定し得ることになる。


【肯定説】

※外国人にも入国の自由が、憲法上保障される。

【理由】

※原則的には入国の自由を認めたのちに、国家の独立と安全を侵すかあるいは公序良俗に反する現実かつ明確なおそれがある外国人の入国を拒否すれば足りるとするものである。

【判例】

※外国人の入国の自由

(昭和53年10月 4 日の最高裁判決)

・「憲法22条 1 項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される。」

⇒したがって、憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでない。」という見解を示している。


(i)在留権

※入国の自由が保障されていない以上、在留の権利についても、外国人に保障されているとはいい難いと考えられている。

○在留資格

※我が国への上陸を許可された外国人は、上陸許可等の際に決定した在留資格に基づき我が国に在留することとなる(入管法 2 条の 2 第 1 項)。


【参考】

※在留資格とは

・我が国に在留する間に外国人が行うことのできる活動又は我が国に在留することのできる身分・地位を類型化した入管法上の法的資格であり、入管法の別表第 1 の 1 ~ 5 および別表第 2 に27種類に分けられて掲げられている。

【例外】

第二次世界大戦前から我が国に居住する朝鮮半島・台湾出身者及びその子孫については、特例法により特別永住者としての在留が認められている。 


※我が国家では、在留資格ごとに、在留中に行い得る活動が定められていて(入管法 2 条の 2 第2 項)、就労可能な在留資格が付与されれば、就労許可を別途得る必要はないとされている。

⇒その意味で、在留資格は、我が国における外国人の入国・在留管理に係る基本的な法的枠組みといえる。


(ⅱ)出国の自由

※外国人の出国の自由は、憲法上保障されるかが問題となる。

⇒一般には、外国人の出国の自由を認めている。ただ、その憲法上の根拠について、学説が3 つに分かれている。


【肯定説①】

※第一に、居住・移転の自由を保障する憲法第22条第 1 項を挙げる説がある。


【肯定説②】

※第二に、外国移住の自由を保障する憲法第22条第 2 項を挙げる説がある。


【否定説(98条2項説】

※第三に、国際法規等の遵守を定める憲法第98条第 2 項に根拠を求める説がある。

⇒ただし、 3 つの説のうち、いずれの立場に立っても、具体的な結論には、ほとんど差が生じないとされている。


【判例】

※判例は、出国の自由に関して、「憲法二二条二項は『何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない』と規定しており、ここにいう外国移住の自由は、その権利の性質上外国人に限って保障しないという理由はない」という判断を示している。

※国会答弁でも、当時の内閣法制局長官が、「憲法もまた、出国の自由というものは、どこの国の国民であろうと、それは保障している」と答弁している。


(ⅲ)再入国の自由

※在留外国人の再入国の自由は憲法上の権利かが問題となる。

⇒外国人が、再度我が国に入国することを前提として、出国した場合に、その外国人に対して、再入国の自由は保障されるのだろうか。この学説の立場は、2 つに分かれる。


【肯定説(22条説】

※再入国の自由は、憲法第22条によって保障されるが、もとより、日本国民の帰国の場合と同程度に保障されるわけではないという立場である。


【否定説①(98条2項説】

※再入国の自由は、国際慣習法等によるとする立場であり、初めて入国する場合とは異なる配慮が必要であるとしつつも、最低限度の規制を認める。

⇒もっとも、この 2 つの説のいずれの立場を採っても、具体的な結論の違いは、ほとんど生じない。


【否定説②(判例)】

※日本人と結婚して、我が国に居住する外国人が、指紋押捺拒否を理由とする再入国不許可処分にかんして争った事案。

【判旨】

「我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものでない」という判断を示している(森川キャサリーン事件 )。


(ⅳ)亡命権(庇護請求権)

※亡命権(庇護請求権)とは、亡命者もしくは難民が、国籍国以外の外国(避難国)の憲法もしくはその国との条約によって保護を与えられる権利、または、憲法ないし条約上の規定をもたない外国(避難国)が国家の権利として有する庇護権に基づいて庇護請求者に保護を与えることを決定した場合に、それを享受する権利をいう。

⇒この亡命権が、憲法上の権利といえるかについては争いがある。


A 否定説(多数説)

【結論】 亡命権は憲法上の権利ではないとする。

【理由】 日本国憲法は、亡命権の保障のための直接の明文規定をもたない。


B説 肯定説(荻野)

【結論】 亡命権は憲法上の権利であるとする。

【理由】 平和的生存権、国家法規の遵守、憲法第三章の趣旨などにかんがみ、亡命権は

     憲法上の権利として認めるべきである。


(4)保護される人権の限界

1、外国人にも、権利の性質上適用可能な人権規定は、すべて適用されると考えるべきであろうとすると(性質説)、平等権、自由権、国務請求権(受益権)は、原則としてすべて外国人にも保障される意味をもつ。

⇒しかし、その保障の程度・限度は、日本国民とまったく同じということはない。


(a)精神的自由(特に政治活動の自由)

[人権保障の程度]

※保障される人権としても、その程度は日本国民と同様かが問題とされる。


【政治活動の自由】 

〈問題提起〉

※外国人に、政治活動の自由は保障されるかという点。


〈理論構成〉

※政治活動の自由は、表現の自由(21条)の一環

→表現の自由は、精神活動の所産を表明する精神的自由権であること。

 よって、外国人であっても、性質上保障される。

 しかし…

〈問題提起〉

※では国民と同程度の保障が及ぶか、保障の程度が問題になる。


〈理論構成〉

※政治活動の自由は、参政権機能を有するとされる。

 →参政権は国民主権原理(前文,1条)のもと国民にのみ保障される。

 よって、国民と同程度の保障は及ばず日本の政治問題に対する不当な干渉にならない限りで認められるとされる。(以上は通説的見解である)


※反対説からの批判を見ると

 ・政治活動の自由は参政権そのものではないとする意見がある。

  ⇒国民主権論から直ちに制限されるか疑問である。

 ・多様な意見に接することが国民の主権的意思決定にとって有用される。

  ⇒外国人の政治的意見を否定する理由はないのではないかという部分。


③ 経済的自由

※経済的自由権(職業選択の自由、営業の自由、財産権)は、社会的な相互関連性が大きく、精神的自由に比較しても公権力による規制の要請が強い。

⇒経済的自由権は権利の性質上、国民と異なる特別の制約を特別加える必要があるので、種々の制限が課せられている。

(公証12条、電波5条、鉱業17条、87条、銀行47条、船舶3条、外国人土地1条等)


かいひろし法律の部屋

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