会社法のお勉強 第7日

(2)「目的の範囲内」の解釈について(判例の検討)

※問題の提起

1、会社にも民法34条が適用されることを前提にしたときに、「目的の範囲内」とはどの程度の範囲内のことを意味するか、また行為の判断基準はいかなる基準にすべきなのかが問題点となる。

2、「目的の範囲内」とはどの程度の範囲内のことを意味するのかについてであるが、当初、大審院判例では「定款に記載されていない事項はすべて目的の範囲外」にあるとしていた。

3、しかし、このように大ざっぱに解すると、会社の多くの行為自体が定款の範囲外になってしまい、取引の安全が保てなくなることになる。

⇒このため判例は、

①「記載事項より推理演繹し得べき事項」(大判大正元・12・25)、

②さらに「その目的たる事業を遂行するに必要なる行為」(大判大正3・6・5)と次第に目的の範囲を広く考えるように変化している。

4、次に、行為の判断基準について見ると。

⇒この点に関しても、はじめは「目的たる事業の性質其他諸般の情状を参酌して具体的に各場合に付き之を定むべきもの」と判示していたのであるが、具体的な事情に関しては、「取引の相手方にはわからないから取引の安全を害することになる」と批判されていた。

5、その後に、「行為の外形から観て、会社の業務を遂行する上で必要な行為であるか否かを判断すべきである」とし、客観的に基準を見直し判断する立場を取ることになった(大判昭和13・2・7)。


(3)現在の判例を見る(事案、結論)

1、ここで、現在の判例では会社の権利能力はどこまで認められている化という点である。

⇒これに関して、二つの判例の事案、結論を確認すると。


※A 最高裁昭和27年2月15日 判決

【事案】

「不動産其ノ他財産ヲ保存シ之ガ運用利殖ヲ計ルコト」を会社の目的とする代表者の決まっていない合資会社において、不動産の売却が他の社員の同意を得ずに行われた場合に、かかる行為は「会社の目的の範囲内かが争われた」事案。

【地方裁判所と高裁の判旨】

地裁では、「代表社員に選任された事実なく本件行為を行った場合には、会社に目的に属しないとし無効である」とした。他方、高裁においては「代表権限の有無に関係なく、本件行為そのものが、定款所定の目的に反する」とした。

【最高裁の判断】

「仮りに定款に記載された目的自体にから観察して、客観的に抽象的に必要であり得べきか」との基準によって決すべきとし、本件は客観的に観察すれば目的の範囲内とし破棄差戻しをしている。


(2)会社の権利能力と寄付行為(政治献金)に関して

※学説を見る


①無効説

A営利性に反し目的の範囲外となるという説。

B会社のなす政治献金は民§90に違反し無効するという説。

C政治献金は法人としての性質上能力外という説。


②制限的無効説

※応分の、あるいは合理的な範囲内ならば目的の範囲内とする。

(営利目的制限説からすれば営利目的)であるとするものである。


③有効説(多数説)

※民43条適用肯定説からは目的の範囲内との評価している。


◇会社の政治献金が贈与契約として有効とされるとしても当該行為をなした取締役の責任は別問題である。

(定款・法令違反=会社の規模・経営状態その他の事情を勘案して不相当と判断できるときがあれば取締役は責任を負う。)

※会社法266条1項5号。また257条3項、272参照。


○その他の寄付

※その他の寄付につき、会社はなしうるとの結論にはほぼ異論がない。

(もちろん、理由付けは上記の学説に応じて異なってくる)。

⇒取締役の責任の問題も同様である。


※判例

○八幡製鉄政治献金事件(最判昭45.6.24)

1 政治献金は能力外かについて

※最判昭27.2.15と同旨を述べたうえで、「会社は自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ない。

⇒ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところ…。会社にとっても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、間接ではあっても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。以上の理は、会社が政治献金を寄附する場合においても同様である。」と判旨している。


2 民法90条違反かについて

※「会社は、…国や正当の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有する。」

⇒政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、…これを自然人たる国民による寄附と別異に扱う憲法上の要請があるものではない。」そして、会社の政治献金は国民の参政権を侵害せず、、民法90条に反するものではないとしている。


【参考】

1、八幡製鉄の株主、A弁護士は、同社が政治献金を自由民主党に行ったことについて、「特定政党への献金は、会社の定款と忠実義務に違反」と訴訟を起こした。

2、この日の東京地裁判決は、原告側の主張を認める。しかし、被告側はこれに控訴。

⇒3年後の高裁判決(東京高判昭和41年1月31日)では「取締役の会社を代表して行う政治献金は、その額が過大であるなど特段の事情が無い限り、原則として定款・法令違反を構成せず、賠償責任は発生しない」として判決がでて、状況が一変。

3、もちろんA弁護士はこの判決に対し上告している。

※最高裁での争点は以下の3つだった。

①政治献金が会社の定款所定の目的(権利能力)の範囲内であるか

②日本国憲法の参政権に違反するのか

③取締役の忠実義務に反するか

※そして、最高裁判所も原告の上告を棄却して、会社による政治献金を認めた。

(最判昭和45年6月24日 )


(3)会社の政治献金と取締役の忠実義務

1、政治献金は、取締役の会社に対する忠実義務違反にならないかどうかが問題となる。

⇒先の最高裁判決は、取締役が職務上の地位を利用して、自己または第三者の利益のために政治献金をするならば、忠実義務違反になるとしている。

2、そして政治献金をするときは、無制限に認めるものではなく、その会社の規模、経営実績、その他社会的経済地位および寄付の相手方など、諸般の事情を考慮して合理的な範囲内において金額を決めるべきであるとする。

3、この範囲を超えた不相応な寄付は、取締役の忠実義務に違反するとしている。


【学説の立場】

※学説も多くはこの判決の立場を支持しているが、政治献金は会社の権利能力の範囲内の行為と認めながら、応分の寄付の判定が困難、また、社会的弊害などを強調して政治献金はすべて忠実義務違反とする説もある。

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