会社法のお勉強 第3日

二 会社の概念

(2)法人性

1、会社はすべて法人であると定められる(3条)。

※合名会社・合資会社・合同会社・株式会社はすべて法人格を有する。

2、法律的には、権利義務の主体たる資格(権利能力)を認められた存在をいう。

⇒つまり法人は、自然人以外で、権利能力を認められた存在ということになる。

3、原則として、会社とその構成員たる社員(株主)とは別個の法人格であって、会社の財産は社員(株主)の財産ではなく、会社の負債もまた社員(株主)の負債ではない。

また、会社債権者は社員(株主)に対して会社自体の負担した債務の履行を求めることはできない。


(3)法人格否認の法理

(イ)法人格否認の法理の意義

※法人制度の目的に照らし、法人格が形骸にすぎない場合(正義・衡平の理念に反する)や法人格が濫用されている場合(不法に利用されている)に、特定の事案の妥当な解決のために、その紛争解決に必要な範囲で、法人とその背後の者との分離を否定する法理である。

⇒小規模閉鎖会社や支配従属関係にある会社を巡るさまざまな法的問題の中で、特に会社債権者保護に関して展開される。


(ロ)法人格否認の法理の適用範囲と要件

①形骸化

・総会・取締役会の未開催

・親子会社で相互に役員を兼任すること

・会社業務と個人業務の混同および会社財産と個人財産の混同

②濫用

・競業避止義務等を負うものが実質的に義務回避をしている場合

・債権者詐害を目的とした新会社を設立し、「資産の大部分を移転」した場合

・新会社設立が「不当労働行為の手段」とされた場合


【判例】

※昭和44年最高裁判決(最判昭44.2.27)

【事案】

①XはY会社と店舗の賃貸借契約を締結。

②Yは電器機器販売業をしていたが実質的にはAの個人企業であり、Xは電気屋のAと契約をしたつもりであった。

③その後XはAを相手に賃貸家屋の明渡訴訟を提起して、賃貸借契約を 解除して和解が成立した。和解に基づきXはAに家屋の明渡しを求めたが、Aは和解の当事者はXAだからAが使用していた部分は明渡すがYが使用している部分は明渡しを拒否した。

※そこでXがYを相手に提訴した事案である。

【判旨】

①法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法の適用を回避するために、

濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべき」であり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。

②会社という法的形態の背後に存在する実態たる個人に迫る必要を生じるときは、会社名義でなされた取引であっても、相手方は「会社という法人格を否認して恰も法人格がないのと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追及することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であっても、相手方は商法504条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為である」と認め得るとした。


【判例2】

 (最判昭48・10・26)

1、「おもうに、株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立されうることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、

形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であつて、

このような場合、会社は右取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追求することができるものと解するのが相当である。」

2、「本件における前記認定事実を右の説示に照らして考えると、上告人は、昭和四二年一一月一七日前記のような目的、経緯のもとに設立され、

形式上は旧会社と別異の株式会社の形態をとってはいるけれども、新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、

上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがって、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができず、かつ、旧会社の被上告人に対する本件居室明渡、延滞賃料支払等の債務につき旧会社とならんで責任を負わなければならないことが明らかである。」

【判例3】

 ★「子会社の否認」仙台地判昭45・3・26

<事案>

1、Xは全国に多数の工場を有しているが、それらの工場を自ら運営しているわけではなく、別会社に工場を賃貸借して運用されている。別会社は、然して財産を有しているわけではない。

2、その別会社の1つである○○工作株式会社(A)は,累積赤字により従業員200名を解雇し,会社を解散した。このため,労働組合員ら(Y)は「業績不振というのは口実で,本当は労働組合を解散させたかったんだろう」として争議に突入,自らの退職金等を被保全債権としてA会社の有体物仮差押え決定を得た。これに対してXが第三者異議の訴え等を提起する。

3、Yの主張は「AとXは形式的には別個のものだが,実質的にはAの工場はXのものであり,であるならばXは,形式的な別異性のゆえに,同一企業なら免れえない責任を免れるというのは許されない」という法人格否認の法理の適用請求である。

<判断>

1、事実によれば,AはXに資本的にも業務的にも完全に支配された子会社である。

2、法人格否認の法理の適用は,「対象会社の株主が法人であるか個人であるかで違いがあり,個人を株主である場合に法理の適用を認めると,株式会社の効用を株主有限責任の原則上否定することになるが,法人の場合はそうとも限らない。

3、また、子会社の債権者のうち、能動的債権者と受動的債権者を区別し、受動的債権者に対してだけは、法人格の濫用が認められなくとも、法人格否認の法理を適用し、その救済を図るべきである。そうでなければ、能動的債権者を過度に保護することになってしまうからである。

・・・・・

(ハ)法人格否認の効果

1、会社名義でされた取引についても、これを背後にある実体たる個人の行為と認めて、その責任を追求することができ、また、個人名義でされた取引についても、商法五〇四条によらないで、直ちにこれを会社の行為と認めることができる。

2、法人格否認の法理が適用される場合、その事件においては、会社の独立性が否定され、会社と背後者が同一視されることになり債権者は会社・背後者いずれに対しても請求することができる。


(ニ)法人格否認の法理と既判力および執行力の拡張

1、会社の背後の支配社員(株主)と会社、または旧会社と新会社が実体法上一体として取り扱いうる場合でも、訴訟手続ないし強制執行手続においては、前者に対する既判力および執行の範囲を後者にまで拡張するかどうかにつき、肯定説もある。

2、しかし、手続の形式性、明確性、安定性の要請から認められないと解する多数説・判例が正当である。第三者異議の訴えにおいて、法人格否認の法理を適用して、原告の請求を排斥することができるかどうかについて問題がある。


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