憲法のお勉強 第10日

③ 国民主権の原理

1  主権の意味

(1)主権の多様性

※主権の概念は多義的であるのだが、一般的に次の3つの意味で用いられている。

 1. 国家権力そのもの

 2. 国家権力の属性としての最高独立性

 3. 国政についての最高の決定権


(a)国家権力そのもの(統治権)

1、国家権力それ自体を意味する主権とは、「国家が有する支配権」を示す言葉である。

2、立法権、行政権、司法権など複数の「国家の権利」ないし「統治活動をなす権利」を総称する観念でもあり、統治権とほぼ同じ意味である。

3、日本国憲法にいう「国権」(憲法41条)がこれに当たる。

・・・・・

 第41条

 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。


(b)最高独立性

a) 独立性: 国家権力が対外的に他の国から干渉をうけないこと

b) 最高性: 対内的に、他のいかなる権力主体にも優越していること

 前文3 段 「自国の主権を維持し」 (特に対外的独立性の意味)

             ↓

          国家権力の主権性

 対内的最高性、対外的独立性 → 憲法前文の「自国の主権を維持し、・・・」


【参考】

※憲法の前文では、「自国の主権を維持し」という部分にこの最高独立性を指して主権と表現している


(c)最高決定権(最高決定性)

※国の政治のあり方を最終的に決定する権威、あるいは権力のことである。

「主権の存する日本国民の総意」憲法1条に基づく

 ①権威が君主に存する場合 → 君主主義といわれる。

 ②権威が国民に存する場合 → 国民主義といわれる。


(2)主権の歴史性 ― 多義性の理由

(a)絶対君主制の時代=最高独立性の概念

※絶対君主制の時代に君主の権力が封建領主に対して最高であり、ローマ法王・神聖ロ

ーマ帝国に対して独立であるという最高独立性(国家権力の主権性)が、主権本来の概念だった。

(b)制君主制国家で君主の権力=国家権力=最高独立性=国政の最終決定権と、統合的に主権が理解され、その後、君主制の立憲主義化にともない、君主の権力と国家権力が分けて考えられ、主権の概念が3つに分解した。


2  国民主権の意味

(1)主権の性格 

※1791年フランス憲法の3篇1条が、近代的意味の主権の意味を明らかにしている。

「主権は、唯一、不可分、不可譲、かつ時効にかからないものであって、国民(ナシオン)に属する。 人民(プープル) のいかなる部分またはいかなる個人も、 主権の行使をそれに帰属させることはできない。」

帰属=特定の組織体などに所属し従うこと。


 唯一 = 国民(ナシオン)主権であること → 君主主権でないこと。

 

 不可分 = 主権の要素は全て主権者に総体的に帰属する

                ↓

          主権要素は分離不可であるという点


 不可譲 = 主権の実体(憲法改正権が核心)は国民(ナシオン)が保持している 

                  ↓

       主権の行使方法(間接民主制など)の決定は委任できる

※時効にかからない = 国王は、国民から奪ってきた実権(主権)を、

            時効取得できない。


(2)主権の保持者 

(A)有権者の総体(選挙人団) → 有権者主体説

★有権者主体説

【結論】「国民」は、有権者の総体(選挙人団)の主体であるとする。

【批判】

※有権者主体説は、全国民を主権を有する国民と有しない国民とに2分するが、主権を有しない国民を認めることは、民主主義の基本理念に反するとしている。

⇒選挙人資格は、法律で定められる(憲法44条本文)。しかし、国会が主権を有する国民の範囲(選挙人団)を法律で定めることは、論理的矛盾だとする。

※「国民」を「有権者」とすると、

⇒国会が技術的理由等により、主権者である「国民」(=有権者)の年齢・住所要件・欠格事項等を法律で決めることになる。

※「国政は、国民の厳粛な信託による」とし、「その(国政の)権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と謳う日本国憲法前文1項2段とも、解釈上、必ずしも適合しない部分がある。


★国家法人説を根拠とする説(美濃部先生)

1、主権(国家意思を構成する最高の原動力たる機関意思)は、国の最高機関から発する。

⇒国家を社団法人とし、統治権は国家に帰属するものとする。

2、共和制憲法の場合は論理上当然に、国家機関を構成する国民(選挙人団)が、主権の主体となる。

※共和制での主権主体は、国家機関を構成する選挙人団である、という意味である。

【参考】

※統治権という意味での主権は、君主ではなく国家に属し、君主は法人である国家の代表機関としてこれを行使することとなる。

⇒したがって、国政の在り方を最終的に決定する権限という意味での主権が君主に属することを否定していない。

※国家法人説自体は、ブルジョワジーの担い手として登場した立憲君主制の観念とし、日本においては、戦前、美濃部達吉の天皇機関説として知られている。

⇒それは、大日本帝国憲法の君権主義的側面を弱体化させ、立憲的側面を強化する事で民衆の意思による政治を可能な限り実現させるための論拠となっている。


★主権を、憲法制定権力と同視する説(清宮先生)

※主権 = 憲法制定権力

※憲法制定権力 = 選挙人団の権力とみるもの

∴ 主権主体 = 選挙人団である (天皇、未成年者等はその意味から除外する)

※憲法制定権力とは、憲法を制定し、憲法上の諸機関に権限を付与する権力を指す。制憲権(せいけんけん)とも言う。


★主権理論史を根拠とする説(杉原、樋口先生)

【結論】

※主権主体は、国民ではない。

※主権主体は、人民であるということ。

(つまり、主権主体は、選挙人団=有権者の総体だとする。)

【理由】

1、フランス流の主権論から考えれば、日本の「国民主権」は、「人民(プープル)主権」を意味する。

2、なぜなら、条文上、公務員選定罷免権は原理上国民に留保されているし(15条1項)、また、日本国憲法は、部分的に国民の直接決定権を機構化しているからである。

(憲法改正国民投票、最高裁判所裁判官の国民審査、地方自治特別法の住民投票)


(B)国民全体(天皇以外) → 全国民主体説

★全国民主体説(宮沢先生)

【結論】

※全国民が主体だとする。

⇒主権主体は、選挙権に関わらず、全ての自然人たる国民の総体だということになる。

【批判】

1、国民の総体に主権が存するとは、国家権力が現実に国民の意思から発する事実をいうのではなく、国民(総体)から発するべきという建前をいっているに過ぎなくなる。

2、国家権力が国民から発するべきという建前に過ぎなければ、国民主権は理論上、主権の権力的契機とは直接の関係がなくなってしまう。しかし、国民主権は、主権の権力的契機無しで構成するべきではない。


★主権の正当性の契機と権力的契機を融合する説(芦部先生)

【結論】

1、主権保持者が「全国民」である限りにおいて、主権は権力の正当性の究極的根拠を示す原理だということ。

2、しかしながら、主権原理には同時に、国民自身(有権者の総体)が主権の最終行使者(憲法改正決定権者)という、権力的契機が不可分に結合している。

【理由】

1、国民主権原理は、国民の憲法制定権力(制憲権)の思想に由来する。

2、このオリジナルな制憲権(始源的制憲権)は、近代立憲主義憲法が制定された時、

合法性の原理に従い、制憲権自らを憲法典の中に制度化(組織化)した。

※つまり、制憲権は

(1)国家権力の正当性の究極の根拠が、国民に存するという建前ないし理念的性格をもつ国民主権原理、及び、

(2)法的拘束力に服しつつ、憲法(統治のあり方)の改正権(制度化された制憲権)に転化した。

※つまり、権力的契機は、国民主権原理と密接不可分に結びつき、また、憲法改正手続規定(96条)中にも、改正権として具体化されている。


かいひろし法律の部屋

今学んでいる法律の学問を記します。

0コメント

  • 1000 / 1000