民法のお勉強 総論 第8日

第5節 不在者の財産の管理と失踪宣言

1 不在者の意義

1、従来の住所又は居所を去って、容易に帰ってくる見込みのない者を不在者という。

⇒この不在者のためについて、本人のために、あるいは利害関係者になんらかの前後措置を講ずる必要がある。そのために不在者制度がある。


※不在者制度 

※従来の住所又は居所を去った者(不在者)が帰ってくるまでに、その者の残した財産を管理するものを定めて、やがて帰ってくるという将来的な前提で、残していった財産の管理をするという立場で規定されている。


2 不在者の財産の管理

①不在者の財産管理制度

※不在者とは、住所又は居所を去って、容易に帰ってくる見込みのない者のことをいう。

⇒その不在者に管理者がいる場合(親権者・後見人という法定代理人がある場合、または不在者が自ら財産管理人を置いている場合)には、法律の規定や契約(委任契約)に従って不在者の財産を管理するので、原則として国家がその不在者の財産に関与する必要はない。

※しかし、管理人が権限を失った場合や、本人の生死が不明な場合で管理人をコントロールできなくなった場合には、国家の関与が必要となり、この制度が要請される。

(生死不明の場合も、失踪宣告を受けるまでは不在者として扱われることになる)


②不在者が管理人を置かない場合、管理人を置いたがその権限が消滅した場合

※家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により必要な処分を命じることができる。

(通常の場合は、財産管理人の選任になる)

⇒選任された管理人は、不在者の法定代理人であり、不在者の財産の適正な管理を職務とし、普通の管理行為を代理して行うことができる。

(103条の権限たる保存行為や利用行為または改良行為である)


※管理行為を超えて財産を処分する必要があるときは、裁判所の許可を得なければならない。

⇒この許可を得ずになされた行為は、無権代理行為であり、その効果は本人に帰属しないことになる。


※管理人は、その職務を執行するにあたっては、あたかも委任を受けた者と同一の地位に立つことになる。この場合は、委任の規定(634条)が準用される。


③不在者の生死が不明となった場合

※不在者の生死が不明となった場合、家庭裁判所は、一定の者の請求により、不在者の置いた管理人を改任して、別の管理人を選任し監督できるが、改任せずに監督することもできる。


④管理の終了

※本人が後日に、管理人を置いたり(25条2項)、自ら管理できるようになったとき、さらに不在者が死亡し、又は失踪宣告をうけたときは、家庭裁判所は、本人・利害関係人又は検察官の申立てにより、命じた処分を取り消すことになる。


3 失踪宣言

(1)失踪宣告制度

※不在者の生死不明の状態が長く継続した場合に、一応その者の死亡を擬制して、従来の住所を中心とする法律関係を確定するのが、失踪宣告の制度である。


①失踪宣告の要件

1、失踪宣告は、家庭裁判所が、次の要件が備わったときに、審判によって行う。

ア 実質的要件

1 不在者について、何らの消息もないために、生存の証明も死亡の証明も立たないこと。

2 生死不明者が一定期間継続すること。この期間は、普通失踪については生存していると知られた最後の時から7年間であり、戦争や船舶の沈没などの場合の危難に遭遇した者を対象とする特別失踪については危難の去ったときから一年間である。


イ 形式的要件

1 利害関係人(法律上の利害関係人)の請求があること。

2 公示催告の手続き及び事実の調査・証拠調べ


②失踪宣告の効果

※普通失踪における失踪者は失踪期間(7年)の満了した時に死亡したものとみなされ、特別失踪における失踪者は危難の去った時に死亡したものとみなされる。

⇒死亡したと擬制される時期について相違があり、普通失踪の場合は、7年の満了した時であり、特別失踪の場合は、危難の去ったときに死亡したものとみなされる。

※したがって、失踪者の財産について相続が開始し、失踪者と生存配偶者との婚姻関係が終了するなどの効果を生じる。

※失踪宣告によって死亡とみなすのは、失踪者の従来の住所を中心とする法律関係を確定させるためであって、失踪者の権利能力を消滅させるものではない点に注意する必要がある。

⇒権利能力が実際に消滅するときは、あくまで実際に死亡した場合に限られるからである。


※もし、本人が生きていれば、本人は売買・賃貸借等の行為をすることができることはもちろんである。また、「推定」ではなく「みなす」のであるから、失踪宣告が取り消されない限り、本人が生きている場合とか異なる時期に死亡したとかいう主張をすることができない。


※普通失踪宣告

※普通失踪宣告がされた場合、失踪期間満了前に失踪者の配偶者が行った失踪者の財産の処分が有効とみなされることはない。

⇒配偶者の行為は無権代理行為であり、仮に配偶者が単独相続人の場合、失踪宣告により相続が開始され、無権代理人が本人を相続した場合として無権代理行為である売却処分の追認を拒絶できなくなり、結果として無権代理行為が追認により当初から有効なものとなる。


※不在者の財産管理人の選任の有無にかかわらず、利害関係人は失踪宣告の請求をすることができる。


③失踪宣告の取消

要件

※次の要件が備わる場合には、家庭裁判所は審判によって、失踪宣告を取り

消さなければならない。

※次のAからCのいずれかに該当することが必要である

A 失踪者が生きている証明が実際にあること

B 死亡したとみなされる時と異なる時期に死亡したことが判明したこと

(死亡時期によって相続関係に影響を及ぼすからである)

C 失踪期間の起算点以後のある時期に生存していたことが証明されたこと。

※本人又は利害関係人の請求があること


④効果

※取消しの審判が確定すると、はじめから失踪宣告がなかったと同一の効力を生じることになる。したがって、死亡したものとみなされることから発生した法律効果は、原則として、全部復元すべきことになる。


※失踪宣告により直接財産を得たものは、その取消しにより権利を失うが、「現に利益を受けている限度」(現存利益)で返還すれば足りるとする。


(事例)

※たとえば、相続人・保険金受取人は、得た利益を原形のまま保有していたり、形を変えて保有(保険金で物を買った場合など)していれば、それを返還しなければならないが、遊興費のように無益に費消していれば、その分は返還を要しないとされる。

※もっとも、生活費に使った場合には、その分だけ、自己の財産の支出を免れたわけであるから、財産が形を変えて残っているものとして、返還する義務がある。

※なお、32条2項は財産の直接取得者の善意・悪意を区別していないが、取得者が悪意の場合には同項の適用はなく、704条により全部の返還義務を負う(通説)。


【参考条文】

第32条2項

失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

第704条

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。


※失踪宣告後、その取消し前に「善意」でなした行為は、取消しにかかわらず、その効力を妨げられない。


※当該行為が契約である場合の「善意」の意味について、通説・判例は、当事者双方の善意を意味すると解している。

⇒失踪者の受ける不利益と取引の安全の調和を図ったもの。

※したがって、一方又は双方が悪意のときは、行為の効力が変化することになるが、生存配偶者が再婚した場合においては、新たな婚姻は当然に無効となるのではなく、旧婚が復活する結果、重婚として取消し原因となるに過ぎないとする(通説)。

かいひろし法律の部屋

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