商法のお勉強 第4日

第三章 営業の内部的補助者としての商業使用人


1「商業使用人」とは

1、雇用契約において特定の商人(営業主)に従属し、その商人の営業について補助する者のことをいう。

2、商業使用人は企業の営業について補助を行う者(企業補助者)である。

⇒営業組織の外部に独立の営業者として補助する代理商、仲立人、問屋等とは区別され、また、会社の機関である取締役はこれに含まれない。

3、およそ個人企業であれ、会社企業であれ、企業規模が大きくなれば、営業主が自ら営業活動をすべて行うことはできない。そうなると、当然に、営業活動を適切、かつ合理的に行うためには他人の労力を利用せざるをえない。

⇒そこで、営業上の補助者として商法は様々な規定を定めるが、このうち、企業の内部において企業を補助する者を商業使用人とした。(参考:企業の外部において補助する者を代理商という)

4、商法は、商業使用人として、①支配人 ②番頭・手代 ③物品販売店の使用人 の3者を規定している。(参考:「番頭・手代」とは、部長・課長にあたる者のことをいう。)


(1)雇用関係

1、雇用契約があっても職人のように対外的代理権がない者はここでは商業使用人に含まれない(会社の代表取締役や代表社員は、会社の機関として営業に従事するのであって、商業使用人ではない)


(2)対外的代理権

1、多数説は、商人的労務ないし商業上の労務に服する使用人であれば、たとえ対外的代理権を有しなくても、商業使用人であるとしている。

⇒これに対して、商法における商業使用人を意味するとする少数説によれば、内外的な労務に服するだけで代理権を有しない者(たとえば簿記係、現金出納帳など)は、商業使用人に属さないとする。


(3)従事する労務

1、多数説によると、使用人が従事する労務を、財貨の流通過程に関与するか、生産過程に関するかで分けて、前者のみを商人的労務としている。しかし、商法における商業使用人は商業代理人を意味するとする少数説からは批判がある。


2 支配人

(1)支配人とは

1、支配人の定義には争いがみられるが、通説的にはその権限に着目して、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人とされる(実質説)。


(2)選任

1、商人は、支配人を選任し、ある営業所の営業を任せることができる(20条)。一般的には、支店長クラスが商法上の支配人に該当する。

2、これとは別に、日本法において、商人(会社を含む)が選任した、特定の営業所(商法)・本店または支店(会社法)の責任者たる商業使用人のことという見解もある。

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(参考条文)

第20条 【支配人】

商人は、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせることができる。


3、もっとも会社の場合、株式会社では、取締役の過半数による決定(会348条2項・3項1号)、取締役会設置会社では、取締役会決議(会362条4項3号)、持分会社では、社員の過半数による決定(会590条2項・591条2項)が必要である。


(3)退任

1、支配人は、つぎの要件で退任することになる。

①死亡、破産、成年被後見(民653条、111条1項2号)の場合。

②解除、解任、辞任

③営業の廃止、解散、破産等。

④雇用関係の終了

※しかし、営業主の死亡によっては当然に解任しない(商506条)。

※支配人の選任・退任は登記事項である(商22条・会918条)。

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(参考条文)

第22条【支配人の登記】

商人が支配人を選任したときは、その登記をしなければならない。支配人の代理権の消滅についても、同様とする。


(4)支配人の権利

1、支配人の権限は、裁判上の行為も含めその営業所(会社法上は「本店又は支店」)における営業(会社法上は「事業」)に関する一切に及ぶ(21条1項、会社法11条1項)。

⇒対外的には、商人(会社)を代表する包括的な代理権(代表権)を有することになる。また、他の使用人の選解任権を有する(会社法11条2項)。

2、支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することはできない(21条3項、会社法11条3項)。

⇒そのため、例えば1億円以上の取引は本社の決済を必要とすると会社内部の規則で定めていたとしても、取引の相手方が内部規則を知らなかった場合は取引の効果は会社に帰属することになる。

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第21条【支配人の代理権】

① 支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

② 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。

③ 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。


(5)支配人の義務

1、支配人は、商人(会社法上は「会社」)に対して競業避止義務を負い、商人又は会社の許可がない限り、自ら営業を行うこと、自己又は第三者のために商人又は会社の事業の部類に属する取引をすること、又精力分散防止義務を負い、他の会社又は商人の使用人になること、他の会社の取締役・執行役・業務執行社員になることが禁止されている(23条1項、会社法12条1項)。

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第23条【支配人の競業の禁止】

① 支配人は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。

 1 自ら営業を行うこと。

 2 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。

 3 他の商人又は会社若しくは外国会社の使用人となること。

 4 会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

② 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。


3 部課長

1、営業に関するある種類、または特定の事項の委任を受けた商業使用人は、その事項に関し、一切の裁判外の行為をなす権限を有する(商25条1項・会14条1項)。

2、部分的ではあるが、その範囲で包括的な代理権を有する商業使用人は、その役割では、部長・課長・係長・主任、などがこれに相当する。部課長等も、その有する代理権は支配人と同様の内容を有するものであることから、支配人に課せられる義務も、部課長等にその職務の範囲内で課せられると解するとする。


4 一般商業使用人

1、一般商業使用人(会社社員、行員、店員、雇い人など)は、その者に対して商業活動に関して一定の代理権が与えられたとしても、その代理権は個別的なものであって包括的ではない。

2、したがって、これと取引する相手方は、代理権の存否および範囲について一々調査する必要がある。しかし、物品販売店舗の店員については、店員はその店舗の存する物品の販売等に関する代理権を有するものとみなされる(商26条本文・会15条本文)。

3、この規定は、物品販売店舗の店員が有する代理権の存在の外観を信頼した者を保護しようとするものである。それゆえ、相手方が悪意の場合には、この擬制は及ばない(商26条但書、会15条但書)。

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(参考条文)

第26条【物品の販売等を目的とする店舗の使用人】

物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。以下この条において同じ。)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。



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