刑法のお勉強 第15日目

3 行為論の諸説

(1)因果的行為論(自然主義的行為論)

1、有意的行為論とも呼ばれる。

⇒行為を客観的な身体活動およびそれに基づく因果関係の経過として把握し、意思はその内容を問うことなく、単に外部的動作および結果をひきおこす原因であるとする説である。

2、行為論としては、意思に基づく身体の動静によるものとされ、構成要件論としては、故意は責任要素であり、構成要件要素でないとされる。

3、①行為は現実の意思決定に基づくものでなければならないとする有意性と、②行為はもっぱら人間の感覚に知覚しうる存在でなければならないとする有体性とを考慮する点に注意。


※自然主義的行為論

1、身体的運動を伴わない不作為を行為概念に包摂することができないとしている。

⇒そこで、不作為を自然的「無」としてではなく、法的に期待された「何か」をしないことと解することに、不作為を行為の中に数える価値関係的行為論が登場することになる。

(2)目的的行為論

1、目的的行為論は、行為を予見された結果を実現するためになされる、意識的・目的的動作とする。

⇒行為の存在論的構造の意味を目的性に求め、立法と解釈を拘束するとする「行為を目的的意思に基づく作為に限定する理論」である。

2、ドイツの刑法学者ハンス・ヴェルツェルがこれを主張し、マウラッハやアルミン カウフマンにより発展された。

⇒日本では、平野龍一、平場安治、福田平らにより紹介された行為論のひとつである。

現在の日本では少数説にとどまっている。

※意義

1、行為を、予め意図した結果を実現するための、意識的?目的的動作と解する。

⇒因果的行為論に対する概念であり、行為を目的的活動とし、「目的性」を行為概念の中心にすえる行為論である。

意思内容を行為ではなく責任論にすえるの(因果的行為)は行為の存在構造を無視していると批判される。

※内容

1、目的的行為論の目的性とは、あらかじめ目標(目的)を実現する為の手段を選択し、選択された手段を目標実現に向けて支配?操作することをいう。

⇒目的的行為論は、責任要素とされていた事実的故意を行為の本質的要素となし、これを構成要件の主観的要素、違法行為(不法)の本質として主観的不法要素と解する点にある。

(3)社会的行為論

※意義

1、社会的行為論は、行為は社会的に意味のある有為的な人間の身体の動静と解する。

⇒つまり、人の態度は様々であるが、社会的な意味付けがあって初めて行為となるとする 。

E シュミット

①「有為的な態度による外界の変更」

②「変更が作為によるか不作為によるか問わない」

としており、行為から意思的要素を捨象し、行為が犯罪か否かは責任に依存するとする立場も見受けられる。

※内容

1、現実の行為が主観面と客観面との複合体であり、従来の責任の要素の主観面を行為の概念に包含させ、故意犯?過失犯?不作為犯を統一的な行為で説明できることにメリットがある。

⇒その反面、行為の主観面からの把握が弱くなってしまったという意味合いがある。

※そのため、現在の社会的行為論は、

「人の意思によるものか、少なくとも支配可能だったものでなければ態度とはいえない」する見解が支持されている。

(大谷、前田、曽根など)


○人格的行為論

※意義

1、人格的行為論は、行為者人格の主体的現実化とみられる身体の動静とする。

⇒行為は行為者の人格の主体的実現化であるとする。単なる反射や絶対的強制によるj行為は刑法上の行為ではないとする。

※忘却犯は本人の主体的人格態度と結びつけられた不作為である」から行為であるとする。


※内容

1、行為を人格のあらわれとする理論。

⇒社会的行為論で分析できなかった行為の実質的な意味を「人格」から検証している。

※行為を生物学的基礎と社会的基礎を有する行為者の動態(ダイナミックス)ととらえる。

2、しかし、主体的という言葉が犯罪の事実的基礎を定義づけるには多義的で明確でないとの批判が見受けられる。

※なお、身体の動静を行為の要素としているから、反規範的人格態度の現実化は内心(例えばAを殺そうと思うこと)には及ばない。


4 行為概念の内容

(1)意義

1、日本の刑法上の用語としては、行為は「人の意思に基づく身体の動静」と定義する。

⇒伝統的通説である。

※作為と不作為

※周囲の事物の因果の流れに変動を及ぼす行為を作為(さくい)といい、自らの意思に基づき敢えて周囲の事物の因果の流れに変動を及ぼさない行為を不作為という。

2、行為がなければ犯罪は成立しないという意味において、刑法学ではともに行為とされる。

⇒そのうち、意思による支配可能なもののみをさす。

※このように、一般的な行為概念を規定する機能をもつ意思を行為意思とよぶ。

(2)行為意思

1、行為意思を伴わない行動を犯罪の概念要素、犯罪成立要件としての「行為」を考えることはできない。

2、行為意思に基づかない行動を行為一般として捉えることが、刑法上まったく意味をもたないわけではない。

⇒正当防衛における「不正の侵害」の中には、このような行動も含まれる。

※それが、法益を侵害・危険化する場合においては、これに対して正当防衛をすることができる。

(3)行為の態様

1、作為とは、一定の身体運動をすることをいい、不作為とは、一定の身体行為をしないことをいう。

2、行為は「人の意思に基づく身体の動静」と定義

⇒伝統的通説

※周囲の事物の因果の流れに変動を及ぼす行為(例えば、刑法では、放置しておけばそのまま生存し続けていたはずの被害者を、その頚部を圧迫して窒息死させること)を作為(さくい)といい、自らの意思に基づき敢えて周囲の事物の因果の流れに変動を及ぼさない行為(例えば、足を滑らせて川に転落した被害者を、敢えて救助せずにそのまま放置すること)を不作為という。

(4)行為の主体と客体

1、行為の主体は、「人」に限られる。

 ※(1)原則=「人」:自然人一般 

    例外:法人に対するもの

2、行為の客体とは、行為に向けられる事実的対象、つまり「人」または「物」をいう。

⇒これに対し、犯罪の保護法益および被害者を「犯罪の客体」という。

【事例】

殺人罪:侵害の対象である「人」が行為の客体になる。

※その人の「生命」および当該の「被害者」は犯罪の客体である。


かいひろし法律の部屋

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