憲法条文整理 第13条と第14条

第13条 【個人の尊重と公共の福祉】  

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、 公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 


 重要度:4  

解説等メモ書き: 

【解説】 

・13条は、個人の尊重を最高の人権価値として、生命、自由及び幸福追求の権利を保障している。

・すべての国民一人一人が最大限に尊重されるが、同時に他人の人権も侵害することがあってはならない。   

・「 幸福追求権 」 については、この規定がそれ自体として具体的な権利性を持つのかで争いがあるが、通説、判例は 具体的な権利性を持つとして肯定している。   

・憲法は、すべての人権を明記して、保障するものではなく、 13条の 「 個人の尊重 」 「 幸福追求権 」 を根拠とし、社会情勢に応じた新しい人権が主張されてきている。

⇒ 例えば (プライバシーの権利 ・環境権 ・日照権 ・眺望権 ・嫌煙権 ・情報権・ アクセス権 ・平和的生存権 など)といった人権が主張されている。   

・しかし、人権のインフレ化を懸念する声も存在し、実際に判例が正面から認めた新しい人権は、 みだりに指紋押捺を強制されない自由とプライバシーの権利としての肖像権だけとなっている。  


○重要判例 

※職業安定法違反被告事件:最高裁判例 昭和33年05月06日)

(憲法11条,憲法18条,刑法18条関係)

 ※広島市集団行進及び集団示威運動に関する条例違反、公務執行妨害被告事件 (最高裁判例 昭和35年07月20日) 

(憲法21条、憲法11条、憲法13条関係)

※京都府学連事件:(最高裁大法廷判決昭和44年12月24日)

• 憲法13条は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護している。 

• 個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・態姿を撮影されない自由を有する。 

• 警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際に、犯人のみならず第三者である個人が含まれているとしても、許容される場合があり得る。 


※前科照会事件:(最高裁判所第三小法廷判決 昭和56年04月14日)

• 会社の解雇を巡る争訟で京都市中京区長が犯罪歴を開示した事件、およびその是非について争われた事案

• 「前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接に関わる事項であり、前科等のあるものもこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する

• 「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」 


• 堀木訴訟(最高裁判例 昭和57年07月07日)憲法14条、憲法25条

 • オービス事件(最高裁判所第二小法廷判決:1986年昭和61年02月14日 )

• 北方ジャーナル事件(最高裁判例 昭和61年06月11日)憲法13条、憲法21条 

• ノンフィクション「逆転」事件(最高裁判判例:1994年(平成6年)02月08日)

※参考書等で判旨は確認のこと。

 

• 外国人登録法違反被告事件(指紋押捺制度の合憲性) (最高裁第三小法廷判決 平成712月15日)

憲法13条によって、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する。 

国家機関が正当な理由なく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反し許されず、我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ。 

• しかし、その自由も公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受け、外国人指紋押捺制度は合憲である。 


• エホバの証人輸血拒否事件(最高裁判所第三小法廷判決 平成12年02月29日) 

• らい予防法違憲国家賠償訴訟(熊本地裁  平成13年5月11日) 

原告勝訴 - 国側控訴せず確定

 • 国立療養所などで生活するハンセン病元患者が、らい予防法などによる隔離政策で人権を侵害されたとして、国に賠償を求めた。 

・争点:国策として、ハンセン病患者を療養所に強制的に隔離したことの是非 

• 熊本地裁判旨:隔離政策については一定の理解を示したが、1960年以降については、隔離規定の第13条違反は明白として国の責任を認め賠償の支払いを命じた。

(特効薬が1960年より遥か以前の1943年に開発され、患者だった人たちは基本的に完治していた。つまり隔離の必要性が無かった。詳しくはハンセン病の項参照のこと) 


• 「石に泳ぐ魚」出版差止請求事件(最高裁判所判決 平成14年9月24日) 

• 障害者自立支援法違憲訴訟   憲法13条・第14条・第25条 

※原告と厚生労働省との和解により終結。 

• 平成25年8月迄に障害者自立支援法の廃止し、新たな総合的な福祉法制を実施する。

 • 障害者自立支援法制定の総括と反省。 

2011年、選択的夫婦別姓制度などを求め、事実婚の夫婦など5名が、現在の夫婦同氏を強制し夫婦別姓を認めない民法の規定は日本国憲法第13条・第24条に違反するとして、国に賠償を求めた。  


○参考 

・13条は、個人の人格の尊重と幸福追求権について規定している。

⇒民主主義の発展には、個人の人格の尊重が不可欠。 

・社会の複雑化に伴って、従来では予測のつかなかった分野においても、人権が侵害されるような状況が起きていること。

⇒これに対応していくため、憲法上の規定に不在の人権侵害に対して、憲法13条の幸福追求権の規定を包括人権としてとらえ、人権侵害の救済条項としてとらえていこうとする状況が増えている。

(例えば、プライバシーの権利、肖像権など)

※また、第25条と関連して、環境権などもある。

 ________________________________________ 

第14条 【法の下の平等、貴族の禁止、栄典】  

1 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、 政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。  

2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。  

3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。 栄典の授与は、 現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。 


 重要度:3  

解説等メモ書き:

【解説】 

・14条は、第1項において、民主主義の基礎をなす平等主義の大原則を宣言して、これを具体化するために第2項及び第3項において、 貴族制度の廃止、栄典に伴う特権の禁止を規定している。   

・第1項に記されている「 法の下に平等 」 とは、実質的差異を前提として、同一の条件の下では等しく取り扱うことであるのであり、 累進課税を認めないことなど、実質的差異に基づく合理的な区別は認められるとされている。  

⇒なお、未成年の選挙権(18歳)は今確立されている。 

 ・第2項では、明治憲法下で行われていた世襲的な特権を有する階級制度を一切認めないことを宣言している。   

・第3項では、栄典に伴い、税金を免除したりするような 「 特権 」 を与えることを禁じている。ただし、表彰金を与えたりすることは許されている。  


○重要判例 

※売春等取締条例違反被告事件 (昭和33年10月15日 最高裁大法廷判決)

地域による条例等の差異と憲法14条 • 憲法が各地方公共自治体の条例制定権を認める以上、地域によって差異が生ずることは当然予期されるから、このような差別は憲法自らが容認するところであり、そのような差異が生じても憲法に反しない。 


※尊属殺法定刑違憲事件 (昭和48年4月4日 最高裁判所判決) 

:違憲とされた 

• 被告人は長年脅迫虐待されてきた実父を絞殺し自首した。 

• 争点:刑法第200条(尊属殺人)は、第14条第1項に違反しているかどうかである。

(本条の法定刑は死刑または無期懲役で、普通殺人の死刑または無期懲役もしくは3年以上の懲役に比べ、厳しい刑のみしか選択ができない規定となっていた。)

 • 刑法第200条は第14条第1項に違反して無効であるとし、原判決を破棄し自判、刑法第199条を適用(被告人は懲役2年6ヶ月、執行猶予3年) 

• 1995年に、条文の口語化による刑法全面改正の際に第200条は削除されている。


 ※衆議院議員定数不均衡事件 (昭和51年4月14日最高裁判例)  

一票の格差訴訟 である

※日産自動車事件  (昭和56年3月24日 最高裁)

: 原告勝訴

 • 女子の定年を、男子よりも5歳若く定めた男女別定年制の適法性 • 民法第90条の公序良俗違反により無効と判断された(間接適用)


 • 堀木訴訟(最高裁判例 昭和57年07月07日)

:憲法13条、憲法25条 

• 障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止規定の合憲性が争われた 


• サラリーマン税金訴訟 (1985年3月27日 最高裁大法廷判決)

 • 租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当であり、かつ当該立法において具体的に採用された区別の対応がその目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定できず、憲法14条1項に反しない。

 • 給与所得者に対して実額控除を認めない所得税法の規定は憲法14条1項に反しない。 


※非嫡出子法定相続差別事件 (最高裁大法廷決定 平成7年7月5日)

 • 非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とした民法900条の規定は憲法14条1項に反しないとされた。 

• 2001年に死亡した東京都の男性・和歌山県の男性の遺産相続を巡って非嫡出子側が特別抗告を行ない、大法廷回付が行なわれた。本判例が見直される可能性が生じていた。

⇒現在では、第4号にあった「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし」の部分が削除されている。 

※改正後の民法第900条の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用されるとする。

 

※ 選挙無効請求事件  (最高裁判例 平成12年09月06日)

:公職選挙法14条、公職選挙法別表第3参照。

 ※管理職選考受験資格確認等請求事件(最高裁大法廷判決 平成17年1月26日 )

普通地方公共団体に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることは憲法14条1項に反しない。 

管理職の任用にあたり、外国人が就任することが想定されていない公権力行使等地方公務員ととこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は労働基準法3条にも憲法14条1項にも違反するものではない。 


※ 在外邦人選挙権制限違憲訴訟(平成17年9月14日)

※国籍法3条1項違憲訴訟-2008年(平成20年)6月4日 

国籍法3条1項の規定のうち、準正要件を定める部分は憲法14条1項に違反し、無効とされている。 


○参考 

※趣旨 

・14条は、法の下の平等について規定している。

⇒日本では、明治維新の時に、士農工商の階級制度を廃止し、四民平等の原則が採用された。しかし、これは不徹底なものであって、華族制度や男女差別などが当時の世相から当然とされていた。  

・14条では、国民はみな法の下に平等であって、以下のことにより、政治的・経済的・社会的な面において差別されないとしている。 

(人種 ・信条 ・性別 ・社会的身分 ・門地 つまり、生まれや育ちや考え方などで、差別されることはないということであり、形式的な平等について規定)

⇒しかし、国民は各々において、年齢・能力などにおいて個人的な差があるため、一人一人の自由を尊重すれば実際的には不平等が生じることもありえる。 そこで平等とは、形式的な平等ではなく、実質的な平等でなければならない。そのためには、当然差別しなければならない面も出てくるが、許される差別と許されない差別については、以下を参照のこと。 


①反民主的差別 (許されない差別)

:うまれによる差別

・人種 ・性別 ・家柄 ・社会的身分 ・華族や貴族の制度等 

:信条による差別

・宗教的信仰 ・人生観 ・主義 ・世界観 

②民主主義と両立する差別 (許される差別)

:栄典

・世襲と特権のない栄誉 ・勲章その他の栄典

:合理的差別

・条例による差別 ・選挙犯の選挙権等の停止 ・公務員の政治的行為の禁止 ・業務上犯罪の加重規定

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