憲法のお勉強 第26日

※包括的権利と基本原則

一 個人の尊重と幸福追求論

1 憲法13条の意義と内容

 第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(1)憲法13条の法的性格

 ・日本国憲法は14条からそれ以降の条文において、詳細な人権規定を設けている。だが、これらの人権規定は、歴史的にみて国家権力により侵害されることが多かった権利・自由を記したもので、すべての人権を掲げたものとはいえない(人権の固有性)。

 ⇒しかし、社会の変化に伴い、「個人が人格的に生存するために不可欠と思われる基本的な権利・自由」として、保護に値すると考えられる法的利益は「新しい人権」として、憲法上保護される人権の一つだと解する。

※その根拠となるのが、憲法13条に記された幸福追求権である。

 ⇒幸福追求権とは、第13条に規定される「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」のことをいう。

・これは、新しい人権を導き出す論拠とされ、憲法制定以後の社会情勢の変化に伴って、この権利を根拠に様々な権利が主張されることとなる。

⇒初期の学説をみると、13条は14条以下の人権の総称規定であり、具体的権利性を否定していた。しかし、1960年代以降の経済と社会の変化は、徐々に新たな権利を求めるようになり、また学説も次第に13条に具体的権利性を認める説が主流となる。

※この13条、もともとは1776年のアメリカ人権宣言の「life, liberty, pursuit of hapiness」を基にしており、そのアメリカ人権宣言もジョン・ロックの「life,liberty, property」の自然権思想を基としている。


(2)個人の尊重

 ・13条前段は、憲法の基本原理とされる「個人の尊厳」、いわば、個人の平等を重視し、かつ自律的な人間価値を尊重するという個人主義的な原理を表明している。

 ※これにより、人権保障という「自由」の実現の根本的価値は、「個人の尊厳・個人の尊重」という考え方に行き着く。

⇒すべての国民は、「一人一人が個人としての最大限尊重されるべきという価値観」が、近代憲法の最も重要かつ根本的な価値観になるという意味を示しているのである。


(3)幸福追求権

 ※日本国憲法第13条に規定される「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」のことをいう。

・アメリカ独立宣言の掲げる「生命、自由及び幸福追求の権利」の影響が、この条文には認められる。

⇒アメリカ独立宣言の文言は自然権として、「世界人権宣言の生存権や人身の自由の起源」ともなっているのである。


【参考】

※アメリカ独立宣言

「我らは次のことが自明の真理であると見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主(神)によって、生存、自由そして幸福の追求を含むある「侵すべからざる権利」を与えられていること。これらの権利を確保する為に、人は政府という機関をつくり、その正当な権力は被支配者の同意に基づいていなければならないこと。もし、どんな形であれ政府がこれらの目的を破壊するものとなった時には、それを改め、または廃止し、新たな政府を設立し、人民にとってその安全と幸福をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方で、新しい政府を設けることは人民の権利である。」

※「侵すべからざる権利」=これこそ、いうなれば重要なる権利であるということになる。


【学説の整理】

※幸福追求権の法的性格

①A説(権利性否定説)

・13条後段は、プログラム的性格しか持たず、具体的権利を保障しているものではないとする。

⇒実定法上の基本権は14条以下のものに限定

(根拠)

・幸福追求権の範囲が不明確とされる。

・詳細な基本権規定が置かれており、新しい人権を憲法上保障する必要がないとする。

・国政の一般原理の宣言と主観的権利の保障は両立しない。


②B説(権利性肯定説)通説

・13条後段は、具体的権利を保障している。

⇒憲法の保障する権利・自由は14条以下に規定されない。

(根拠)

・規定が包括的であるといえたとしても、直ちに不明確であるとは言い難い。

・社会の変化に応じて、新しい人権の憲法上保障する必要性がある。

・同一規定の中に、客観的規範と主観的権利は両立しうる。


※幸福追求権と他の基本権を考える

・幸福追求権の具体的権利性を肯定した場合、14条以下の個別的規定で保障されるとする基本的人権と保障の意味が競合する場合が生じることになる。

⇒そこで、13条後段と、14条以下の個別的規定との関係が問題視される。

<幸福追求権と他の権利との関係>

①A説

・13条後段は、個別的規定と競合する関係に立つ。

(保障競合説)

(根拠)

・14条以下の規定は、生命・自由・幸福追求という法益を個別的に保護しようとするものであり、理論的に見れば、13条後段と競合する関係にある。


②B説

・13条後段と個別的規定の間には、一般法、特別法の関係が存在する。

(補充的保障説)

⇒幸福追求権は、個別的権利と重なることになるが、一般法・特別法の関

係からみて、幸福追求権条項の適用が排除されるに過ぎないとするものである。

(根拠)

①保障競合説によると、個別的基本権の保障される意義が希薄になる。

②幸福追求権は補充的な保証機能を果たすことに現実的な意義があり、個別的人権規定で足りるときに包括的な幸福追求権を持ち出す意味がない。


※具体的な権利としての「幸福追求権」の内実

・幸福追求権の具体的な権利性を肯定すると、13条後段は14条以下の個別的規定では保障されていないとする。

⇒いわゆる「新しい人権」の根拠規定となりうるのである。

しかし、

○新しい人権が認められるとしても、あらゆる権利に憲法上の保障が及ぶと解することが妥当かという問題。妥当ではないとすると、いかなる基準によって新しい人権が認められるかが問題となる。

※新しい人権を無制限に認めていくと、

①既存の人権の価値が相対的に低下する

(人権のインフレ化)

②新しい人権が他の既存の人権の制約根拠として使用されることになり、多くの場合に人権の制約が許容されることになって、既存の人権の保障が低下するおそれがある

③裁判所の主観的な価値判断によって権利が創設され、三権分立に反するおそれがある

 

 ①A説(人格的利益説)

 ※新しい人権は、人格的生存に不可欠な権利が13条により保障されている。

(根拠)

 ①新しい人権を無制限に認めていくと、既存の人権の価値が相対的に低下する(人権のインフレ化)

 ②新しい人権が他の既存の人権の制約根拠として使用することになり、多くの場合に人権の制約が許容されることになり、既存の人権保障が低下するおそれがでてくる。

 ③裁判所の主観的な価値判断によって権利が創設され、三権分立に反するおそれがある。

(批判等)

 ・人権保障の範囲が狭くなりすぎるおそれがある。

 ・この説においても人権でない自由に対する制約に対しては、必要性・合理性の有無が判断されることになるが、その根拠が明らかでない。

 ・いかなる人権が人格的生存に不可欠かが不明確。


 ②B説(一般的自由説)

 ※幸福追求権はあらゆる生活領域に関する行為の自由を内容とする。

 ・人権保障の強化に資する。

 ・人権の重要性の程度によって違憲審査基準を変えればよい。

(批判等)

・人権制限の許容性も広く解されるおそれがある。


かいひろし法律の部屋

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