行政法のお勉強 第10日

※行政刑罰と秩序罰

とりあえず、今回は行政刑罰の事を記しました。

秩序罰は次の時間に掲載します。

1 行政刑罰

(1)意義

・行政刑罰とは、行政上の義務違反に対して科される、刑法に定めのある刑罰をいう。

(懲役、禁固、罰金、拘留、科料をさす)


【目的】

※行政刑罰は、行政上の義務違反に対する取り締まりの目的の見地から科され、刑事罰のように、道義責任の追及、犯人の教育のために科されるものではなく、行政刑罰には取締り強化のため、行為者のほかに、業務主をも処罰する規定が数多く置かれている。

(両罰規定)


・行政法学や刑法学においては、行政犯(法定犯)と刑事犯(自然犯)との区別が記されている。

⇒行政犯は、行政処罰を科せられる義務違反のことであり、通説なる見解によれば、行政犯の行為それ自体は反道義性や反社会性を有することはないが、その行為が行政目的のためになす命令・禁止に違反することにより、反道義性や反社会性を有するに至ると いう意味になる。

・ただし、このような区別はその事例をみると絶対的なものとはいえない。

⇒例えば道路交通法に定められる右側通行・左側通行の規定の違いのように、当初は行政犯だったものが、結果的には刑事犯として扱われるようになっているというものも出てくる。

・行政刑罰については、以前、刑法総則の適用の有無が問題視された。

⇒これは、行政刑罰と刑法第8条との関連として議論。


【有力説の見解】

・刑法第8条但し書きなどの明文で定められる場合以外に、刑法総則の適用について特別の扱いをすべきであると主張するものである。

⇒この立場は、過失犯などについて、行政刑罰の特殊性を強調するが、しかし、刑事罰と行政刑罰との区別が相対的であることから、行政刑罰に特殊性を強く認めなければならないということの根拠はみられない。

※また、明文の規定があれば別であるが、この明文規定が存在しない場合には、刑法総則の規定と異なる扱いをするのであるならば、刑法の明確性の原則に抵触するおそれが出てくる。

⇒よって、行政刑罰についても、刑法第8条に定められた原則に従うべきであると考えるのが妥当とされる(通説・判例等)。

・さらに、刑法総則の適用の有無に関する争いの問題は、過失犯の扱いにも関係してくる。

・有力説では、明文の規定がない場合であっても、「過失犯を罰しうる」とする立場をとるので、刑法第38条第1項の規定に反することになる。

⇒罪刑法定主義の原則から見てとると、行政犯であっても、「原則として故意犯のみが罰せられ、過失犯は明文の規定がなければ罰せられない」、と理解すべきである

〔最一小判昭和48年4月19日参照〕。

(判旨)

・道路交通法七〇条、一一九条二項、一項九号の過失による安全運転義務違反の規定は、その構成要件を充たすかぎり、過失犯処罰規定を欠く同法の他の各条の運転者の義務違反の罪の過失犯たる内容を有する行為についても適用される。


【行政刑罰の特殊性について】

・ただし、この行政刑罰に法律的に全く特殊性がないという意味ではない。

①これには両罰規定がある。

⇒これは、法人の代表、法人または本人の代理人、使用人もしくは従業者の違反行為について、行為者の他に、その法人または本人をも罰する規定のことである。

※それに業務主の監督上の過失を推定することもある。このような規定は刑法典には見る限り存在しないのである。

②そして、白地刑罰法規(空白刑法) がある。

・一定の刑罰だけを法律で規定して、罪となる行為の具体的内容は他の法令に譲っている刑罰法規のことをいう。

⇒これは、法律自体において、法定刑だけは明確に定められているのだが、刑罰を科せられる行為(すなわち、犯罪の構成要件の意味)の具体的内容の全部または一部が、他の法律、命令などに委任されているということである。

(広義の意味では、補充規範が同一法律中もしくは他の法律によって規定されている場合も含むのであるが、狭義の意味では、法律以外の命令または行政処分に基づく場合をいう)

※この白地刑罰法規は、刑法典中には第94条(中立命令違背罪)のみが存在するが、行政刑罰にはこの形が非常に多い。


【白地刑罰法規の問題の所在】

・白地刑罰法規は、犯罪の構成要件の具体的な内容を他の規定に委任するものであるため、憲法第73条第6号但書との関連で問題とされる。

※白地刑罰法規が合憲であるためには、いかなる基準で具体的な違反事実を定めるかの大枠を法律自体で示すことが必要となる


(事例:政令325号事件に関するもの 最大判昭和28年7月22)

(判旨)

・所謂アカハタ及びその後継紙、同類紙の発行停止に関する指令についての昭和二五年政令第三二五号違反被告事件は、講和条約発効後においては刑の廃止があつたものとして免訴すべきである。


・また、最大判昭和49年11月6日(猿払事件)は、国家公務員法第102条第1項・第110条第1項第19号・第102条の委任による人事院規則14条7項について、第102条第1項の委任は違憲ではないとする。

※参考

○国家公務員法102条1項【政治的行為の制限】

・職員は、政治又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らかの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

○人事院規則14-7 6項13号

・政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。


【判旨】

行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益に他ならない・・・公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである。

※これに対し、少数意見は、刑事罰の対象となる行為と懲戒罰の対象となる行為を何ら区別せずに包括的委任をなすことを違憲としている。

・行政刑罰の手続の方法は、原則として刑事訴訟法による。

⇒しかし、例外として簡易手続が定められるものが見られる。


※事例として、

①簡易裁判所にて行われる交通事件即決裁判手続(交通事件即決裁判手続法)

②国税局長・税務署長による通告処分 〔国税犯則取締法第14条第1項・第2項(第17条)、関税法第138条第1項〕

③警察本部長による交通事件犯則行為処理手続〔反則金制度。道路交通法第9章(第130条) 〕

※このうち、通告処分および交通事件犯則行為処理手続については、通告を受けた者がこれに従わないときには、正規の刑事訴訟手続がとられるものとするとある。


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