憲法のお勉強 第25日

三 私人間における人権の保障と限界

1 社会的権力と人間

・憲法は原則公権力との間で国民の権利・自由を保護するものである。

( 歴史的に個人の尊厳の敵は国家)

※しかし、資本主義の高度化は巨大な力を持った国家類似の私的団体が登場して、それが数多く生まれ、今では人権が脅かされるという事態を招いている。

そして、最近は、公害問題やマスメディアによるプライバシー侵害なども生じ、重大な社会問題となっている。

・つまり社会的権力による人権侵害からも、国民の人権を保護する必要があるのではないかが問題となってきている。

この問題は、放置しておいたならば、国家による人権侵害を禁じた意味がない

∴ これにより私人間への人権規定適用の必要性が生まれてくる。


2 人権の私人間効力―二つの考え方

【問題の提起】

・人権規定は私人間にどのように適用されるか。

⇒間接適用説と直接適用説の二つに代別される。


※間接適用説

・「規定の趣旨・目的ないし法文から直接的な私法的効力をもつ人権規定を除き、その他の人権については、法律の概括的条項、とくに、民法90条のような私法の一般条項に、憲法の趣旨をとり込んで解釈適用することによって、間接的に私人間の行為を規律すべきである」、という考え方である。


※直接適用説

・ある種の人権規定(自由権、平等権、制度的保障)が私人間にも直接適用されると説く。

⇒憲法の人権規定は私人間においても直接適用され、私人が私人に対して憲法上の権利を主張することができるというものである。


【判例】

※間接適用説

①三菱樹脂事件s48.12.12

 ・憲法14条や19条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。

 ※詳しくは判例参照。


②日産自動車事件s56.3.24

※性別により不合理な差別を定めたものとして、民法90条(公序良俗)により無効とした。(間接適用)


③昭和女子大事件s49.7.19

憲法19条、21条、23条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、・・・専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものではない・・・

(中略)

大学側はもはや控訴人が大学の教育方針に服する意思が無く「教育目的を 達成する見込が失われた」と判断したものであり、この判断は社会通念上合理性を欠くものであるとはいいがたい。


④百里基地訴訟

 ・憲法9条の直接適用はされず、私法の適用を受けるにすぎない。

(実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けない)


3 直接適用説の問題点

■直接適用説の問題点。

・私的自治の原則が害される可能性がある。

⇒これにより、私人間の行為が憲法により大幅に制約されるおそれが出てくる。

・基本的人権は、元来、主として「国家からの自由」という対国家的権利であるということは、現代においても、人権の本質的な指標であるということ。

・「自由権・社会権の区別が相対化した結果、複合的な性格を持つに至った権利」(社会権的な側面を持つ自由権)の直接適用を認めると、却って自由権が制限されるおそれがある。

→国家権力の介入を是認する端緒が生じることになる。


4 間接適用説の内容

※間接適用説

・私法の一般条項(ex.民法90公序良俗)を、憲法の趣旨を取り込んで解釈適用することで、間接的に私人間の行為を規律しようとする。

⇒ただし、15条4項、18条、28条など、人権規定の趣旨、目的、法文から、直接適用される人権がある。

【参考】

第十五条

4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第十八条  

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第二十八条  

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。


5 事実行為による人権侵害

・間接適用説は、純然たる事実行為による人権侵害に対しては、それを真正面から憲法問題として争うことはできない。

⇒民法709条の不法行為に基づく損害賠償の救済手段はあるが、それにも限界があるのである。

※国家行為の理論

・公権力が私人の私的行為に極めて重要な程度まで関り合いになった場合、又は私人が国の行為に準ずるような高度な公的機能を行使しているような場合に、当該私的行為を国家行為と同視して憲法を直接適用するという理論がある。


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