憲法のお勉強 第24日

※特別な法律関係における人権の限界

・公権力と特殊な関係にある者との関係について、たとえば公務員や在監者などは、一般国民と違って公権力と特殊な関係にある、と考えられている。これを特別権力関係論という。


1 特別権力関係の理論とその問題点

・公法学上の概念であり、ある一定の特別の公法上の原因によって成立する公権力と国民との法律関係における法理についての理論である。なお、統治権によって成立する人と公権力との関係は「一般権力関係」と呼び区別されている。

・特別権力関係において伝統的に妥当すると考えられてきた法原則は以下の通り。


①法治主義の排除

※公権力は包括的な支配権(命令権、懲戒権)を有し、法律の根拠なくして私人を包括的に支配できる。

②人権保障の排除

※公権力は私人の人権を法律の根拠なくして制限することができる。

③司法審査の排除

※公権力の行為の適法性について、原則として司法審査に服さない。


【参考】

1、租税関係など、国民一般が国や地方公共団体の権力に服する関係が存在する。これが一般権力関係。

⇒これを前提とすれば、特別権力関係とは、特別の公法上の原因(法律の規定または本人の同意)によって成立する、公権力と国民との特別の法律関係をいう。

2、特別権力関係の理論は、公務員の勤務関係、国公立大学の在学関係、在監関係など、性質の異なる法律関係を、或る国民が公権力に服従するという関係として捉えている。

(それがそもそも問題とされる)。


2 公務員の人権

1、国家公務員の政治活動の自由は、国家公務員法第102条・人事院規則14条7項により制限されている。また、公務員・国営企業職員は、労働基本権が制限される(国家公務員法第98条第2項、地方公務員法第37条、国営企業労働関係法第17条など)。

⇒具体的には、警察職員・消防職員・自衛隊員・海上保安庁・監獄に勤務する者には、労働基本権全て(団結権・団体交渉権・争議権)が否定される。また、非現業の一般公務員には、団体交渉権と争議権が否定される。郵便などの現業の公務員には、争議権が否定され

る。

【判例の動き】

・初期の判例は、「公共の福祉」および「全体の奉仕者」を理由として、簡単にこれらの制限を合憲としていた(特別権力関係論の影響)。

⇒最大判昭和41年10月26日(全逓東京中郵事件)は、公務員の労働基本権を尊重する立場を採る。


※この流れは、最大判昭和44年4月2日(都教組事件)にも受け継がれる(合憲限定解釈を用いた)が、最大判昭和48年4月25日(全農林警職法事件)によって再度転換される。4⇒この判決は、一律かつ全面的な制限を合憲とした。また、公務員の政治活動の自由に対する制限については、最大判昭和49年11月6日(猿払事件)がある。


・しかし、公務員の人権は、法律や条例により、勤務条件(俸給など)が詳細に規定されている。労働基本権の制約についても、法律の規定に基づいているのであり、特別権力関係によって説明する必要はないと思われる。


※最大判昭和29年9月15日、および最二小判昭和32年5月10日は、公務員の勤務関係が特別権力関係であることを肯定。

⇒その上で、このような関係の下で懲戒処分や専従休暇不承認処分を、司法権審査が及ぶものとしている。その条件として、

裁量者による処分が事実無根かあるいは著しい濫用と認められるとき、法的統制の実効性を保障する必要があるとき、としている。


3 在監者の人権

・在監関係についても、憲法第18条・第31条により在監者にも基本的人権が保障される以上、特別権力関係がそのまま妥当すると考えるべきではないとされる。

⇒しかし、在監者に基本的人権が全て保障されるという考え方は、常識にも反するし、懲役などの目的などとも矛盾する。


※在監者の基本的人権を制限する目的は、拘禁と戒護(逃亡・証拠隠滅・暴行や殺傷の禁止・規律維持など)そして受刑者の矯正教化ということを達成するためにあるので、その範囲における必要最小限度の制限が必要とされる。


【判例の動き】

・最大判昭和45年9月16日は、喫煙の禁止を定めた監獄法施行規則第96条の法律上の根拠が問題となった事案に対し、監獄法施行規則第96条を憲法違反でないとしたが、このよう

な制限は法律で定めるべきであるという批判がある。

・「よど号」ハイジャック記事抹消事件最高裁判決(最大判昭和58年6月22日)は、監獄内における規律・秩序が放置できない程度に害される「相当の具体的蓋然性」が予見される限りにおいてのみ、監獄長による新聞記事抹消処分が許されるとの基準を示した。

⇒その判断について監獄長の裁量判断を尊重している点には問題もある。

・その他、監獄法第50条・同法施行規則第130条による「信書の検閲」は憲法第21条に違反しないとする判決もある(最一小判平成6年10月27日)。


かいひろし法律の部屋

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