憲法のお勉強 第9日

① 日本国憲法の基本原理

※憲法の三大原則

1、国民主権(国民主権主義)

2、基本的人権の尊重(基本的人権尊重主義)

3、平和主義


② 前文

1 前文の内容

(1)前文の構造

※日本国憲法の前文は、大きく 4 段に分けられている。各段の要旨及び文言等の解釈を記すとすれば…。


(前文第一段)

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。


※第 1 段では、日本国憲法成立の事実と方法を宣言して、また憲法 の 目 的 や 基 本 原 理 を 概括的に示している。

⇒我が国の憲法は民定憲法であり、平和の達成と自由の確保を目的に、民主主義をその基本原理として、これに反する憲 法 や 法 令 な ど を 許 さ な い としている。


(前文第二段)

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。


※第 2 段は前段の平和達成の趣旨を展開して、戦争の放棄と軍備 の 撤 廃 を な す に 至 っ た 理 由な ら び に そ の 結 果 と し て 予 想さ れ る 事 態 に 対 す る 考 え を 明ら か に している。

⇒そして、 恒 久 の 平 和 を 願い、日本国民の安全と生存を、平 和 を 愛 す る 諸 国 民 の 公 正 と信義に委ねるとする。

※そのほか、全世界の国民が、その戦争の恐怖と欠乏(平和の欠乏)から免れるように、平和の意味を世に打ち立て、生存する意義を教えることである。


(前文第三段)

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。


※第 3 段では国際協調主義がその言葉にて謳われる。いずれの国も自国のことのみに専念せずに、他国と対等 の 関係 で 協調 していくとの必要性をしるすもので、今ある現状の時点で、その記された前文が記されただけにとどまるのではなく、その行動が求められているということを再認識することが必要である。


(前文第四段)

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


※そして最後の第 4 段では、これ ら の 崇 高 な 理 想 と 目 的 の 実現 に 向 か っ て の 決 意 と誓いを宣言している。

⇒誓いというものは、神に対してその意味なる誓いを立ててそれを果たすことに動くことであり、それの意義が今ある日本に問われていると考えるのが賢明である。


2 基本原理相互の関係

(1)人権と主権

1、基本的人権の保障は、国民主権の原理と密接に結びついている。専制政治の下では、基本的人権の保障は完全なものとはなりえないことは歴史が証明することであり、民主政治のもとではじめて人権保障の確立が成立する。

2、前文1項は、前段で、国民主権の原理および、国民の憲法制定の意思(民主憲法性)の意味の表明、人権と平和のおける大事な二原理が憲法制定の目的であることを示している。そして、後段では国民主権と、それに基づく代表民主制の原理を国民に宣言し、以上の原理が憲法改正によっても否定することができない旨を言明するものである。

3、自由(人権の自由)は「人間の尊厳」の原理なしには、到底のこと認められないが、国民主権、すなわち国民が国の基本なる体制政治を決定する最終かつ最高の権威を有するという原理も、国民すべて平等に人間として尊重されてはじめて成立するのである。

⇒これが成立する大切な条件は、その平和な思想を基本とする日本の根本なる変化の意義を、今再認識して世にその体制の価値を表明することである。


 国民主権 + 基本的人権 → 「人間の尊厳」という基本的な原理由来。

                 ↓

             「人類普遍の原理」


(2)国内の民主と国際の平和

1、人間の自由と生存は平和なくして到底のこと確保されないという意味において、平和主義の原理もまた、人権および国民主権の原理と結びついている。

2、世界の平和をいかに保つために、日本の持っている前文の価値は大きいのである。

⇒全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認するために何をするかが問われているといっても過言ではない。


3 前文の法的性質を考える

(1)法規範性

1、日本国憲法の前文も、本文とともに憲法典の一部を構成するものとして、本文と同じ法的性質(法規範性)を有する(通説)。

⇒したがって、本文と同様に憲法改正手続きによらなければ改正できないとするのが理想であるが、世の平和を乱す根本的な改正は望むところではない。


(2)裁判規範性(狭義)

「学説を見てみよう」

問1:前文は、具体的な裁判規範(裁判所で判決により執行することのできる条項)と言えるか?

<学説>

A説(通説・否定説)

・結論:裁判規範性は認められない。

・理由

①前文は憲法の理想・原則を抽象的に鮮明したものであって具体性を欠くこと。

②前文の内容は本文の各条項に具体化されているので、前文がそれらの解釈基準になりうるとしても、裁判所において実際の判断基準としても散られるのは本文の具体的規定である。


B説(有力説・肯定説)

・結論:裁判規範性が認められる

・理由

①本文にも前文に勝るとも劣らぬ抽象的な規定があり、前文と本文の規定との抽象性の相違は相対的なものにとどまる。

②比較法的にも、フランス第五共和制憲法の簡単かつ抽象的な前文が、裁判規範としての役割をもたらしている。


問2:「平和的生存権」の侵害を理由として裁判所にその救済を求められるか。

<学説>

A説(否定説)

・結論:裁判所による救済は認められない

・理由

①前文のいわゆる「平和的生存権」は、憲法の理念を示すに過ぎず、主観的権利として国民が国家に対して直接何らかの行為を求める根拠とはなりえない。

②憲法第3章の人権のカタログの中に「平和的生存権」は挙げられていない。

(批判)

・批判:平和的生存権の権利性を否定することは、そもそも平和が人権の問題であるとした憲法前文の画期的意義を没却するものである。


B説(肯定説)

・結論:裁判所による救済が認められる

・理由

①憲法前文は、法規範性を有すると解されるが、そうであれば、それは少なくとも本文の他の規定と相まって平和的生存権を導く一つの根拠となりうる。

②仮に前文から「平和的生存権」を直接引き出せないとしても、包括的な人権が保障されている13条を手掛かりに国民個人の平和的生存権が根拠ずけられうる。

③9条は、客観的な制度的保障の意味を有するが、その前提には主観的権利の保障が含まれる。


<重要判例>

★長沼事件(第1審・札幌地判昭和48.9.7、控訴審・札幌高判昭和51.8.5)

※自衛隊のミサイル基地建設に関する、いわゆる長沼裁判で、平和的生存権(前文第2項)の裁判規範性が争われた。

⇒第一審は肯定説を取り注目されたが、控訴審は前文の法的性格は認めたものの、平和的生存権の裁判規範性については、否定説の立場を取っている。

※なお、最高裁判所が否定説・肯定説のいずれを取っているのか明確でないが、一般には、前文を具体的事件に直接適用せずに、解釈基準として援用するにとどまるものと解されている。

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