憲法のお勉強36

学習テキスト

第九章 精神的自由権(二)


一 表現の自由(重要出題A)

1 表現の自由の意味

① 表現の自由の価値

・憲法21条1項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と規定する。この、「言論、出版その他一切の表現の自由」を指して、一般に「表現の自由」と呼ぶ。

※表現の自由が憲法上保障される背景には2つの価値がある。

①第1に個人の人格形成上表現活動が重要であるから、自由な言論が保障されるべきだとする「自己実現の価値」である。

②第2に主権者たる国民の政治的意思決定を支えるため、民主政治の重要な一プロセスとして自由な言論が保障されるべきだとする「自己統治の価値」である。


2 表現の自由と知る権利

(一)送り手の自由から受け手の自由へ

・表現の自由は、思想・情報を発表し伝達する自由であるが、情報化の進んだ現代社会においては、

その観念を「知る権利」として再構成しなければならない。

・表現の自由は、情報をコミュニケイトする自由であるから、本来、「受け手」の存在を前提にして考えられる傾向があり、知る権利を保障する意味も含まれているが、19世紀の市民社会においては、受け手の自由をとくに問題にする必要はなかった。

⇒ところが、二〇世紀になると、社会的に大きな影響力をもつマス・メディアが発達し、それらのメディアから大量の情報が一方的に出されることになり、情報の「送り手」であるマス・メディアと情報の「受け手」である一般国民との分離が顕著になったことが見受けられる。

・しかも、情報が社会生活において、もつ意義も飛躍的に増大したことである。それで、表現の自由を一般国民の側から再構成し、

表現の受け手の自由(聞く自由、読む自由、視る自由)を保障するためそれを「知る権利」と捉えることが必要になってきたと言えるのである。

※ようするに受け取る側での判断により、その効果は分かれることになる。

・表現の自由は、世界人権宣言十九条に述べられているように、

「干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由」と「情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」ものと解されるようになったことである。


(二)知る権利の法的性格

・知る権利は、国民が情報を収集することを国家に妨げられないという自由権的性格を有するにとどまらず、国家に対して積極的に情報の公開を要求する請求権的性格を有する。

※さらに、知る権利は、個人が多種多様な事実や意見を知ることによりはじめて政治に有効に参加することができ、また社会生活も充実するという意味で、参政権的な性格を有する。

(これの意味が重要な意味合いを持っている)

・さらに、知る権利というものは、積極的に政府情報等の公開を要求することのできる権利でもあり、

⇒その意味で、国家の施策を求める国務請求権ないし社会権としての性格をも有する点に、もっとも大きな特徴がある。ただし、それが具体的請求権となるためには、情報公開法等の制定が必要とされていたが今現在ではその法が整備されているのは事実である。


※情報公開法

・平成11年法律第42号)は、国の行政機関が保有する情報の公開(開示)請求手続を定める日本の法律である。これは1999年5月14日公布され、2001年4月1日施行されている。


【参考】

・裁判所及び国会が保有する情報の公開請求に関する法律はない。ただし、裁判所については対審と判決が公開され(日本国憲法第82条1項、裁判所法70条参照)、確定した刑事裁判の記録の公開については刑事確定訴訟記録法がある。

・また、司法行政文書については「最高裁判所の保有する司法行政文書の開示等に関する事務の取扱要綱」により開示を求めることができる。

また、国会については本会議・委員会の公開と議事録の公表が定められている(憲法57条、国会法62条・63条参照)。

・なお、国会のうち衆議院及び参議院の事務局についてはそれぞれ「衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程」 「参議院事務局の保有する事務局文書の開示に関する事務取扱規程」が定められているが、

⇒最高裁判所の情報公開制度の運用と同様に、開示決定の法的性質の不明確さ、開示決定による資料の複写において著作権侵害のおそれがあるなどの問題点があることである。

・行政機関に準じる組織である独立行政法人などの情報開示については、独立行政法人情報公開法がある。

⇒開示決定等に不服がある場合は救済措置として行政不服審査法にもとづく不服申立て、行政事件訴訟法にもとづく処分取消訴訟を提起できる。

不服申し立てができる場合においても、これをすることなく直ちに処分取消訴訟を提起できる。

 

3 アクセス権

・アクセス権とはマスメディアに対して個人が意見発表の場を提供することを求める権利である。

※反論記事の掲載要求(反論権)や紙面・番組への参加などがこれにあたる。

・表現の自由の延長線上としてとらえられる比較的新しい概念とされている。

⇒アクセス権の本来の意味は「入手・利用する権利」であり、これは非常に広汎に用いられる言葉である。

※そのため多義に解される用語であるが、日本において多く語られるのはマスメディアへのアクセス権である。

・アクセス権の具体的内容としては様々なものが考えられるが、最も重要視されるものとしてはマスメディアの見解・批判に対して反論の機会提供を請求する権利(反論権のことである)や、意見広告の掲載を求める権利があげられている。

・反論権という用語はしばしば異なった定義で使用されるが、広義にとらえた場合に、「マスメディアが批判報道を行ったことに対して、それが法的に名誉毀損にならずとも、批判記事と同分量の反論文を無料で掲載することを要求できる権利」であるとされている。

・これらの権利を表現の自由の一形態としてとらえる場合は、その根拠は憲法21条に求めることになる。

※ただし憲法はもともと国家と私人の関係を規定するものであり、

私人対私人の関係にあるアクセス権をどの程度導き出すことができるのかといった問題もでてくる。


※アクセス権を認める場合に最も懸念される問題

・マスメディアに対する言論抑圧の可能性があげられることである。

⇒反論権など具体的な請求権を法的権利とし手考えた場合、公権力による規制が行われることになりうるし、マスメディア自体の持つ表現の自由が直接に侵害されることもあり、批判的報道に対して萎縮的効果を及ぼす危険が考えられる。

※また近年ではインターネットの普及が見られることから、これまで受け手とされてきた一般国民が情報発信で対抗するのも可能であることが見受けられる。


【判例】

※サンケイ新聞事件

・1973年12月2日、サンケイ新聞は自由民主党の意見広告を掲載した。その内容は「拝啓 日本共産党殿 はっきりさせてください。」というタイトルで、当時の日本共産党が参議院選挙向けに掲げていた「民主連合政府綱領」が、自衛隊・安保条約・天皇・国会・国有化の各点について「日本共産党綱領」と比較して矛盾していると批判するものであったことである。

・日本共産党はこれは意見を求める挑戦的広告だとして、憲法21条から反論権(アクセス権)が導かれるとして、「同一スペースの反論文の無料掲載」をサンケイ新聞に求めたが、サンケイ新聞側は「自由民主党と同じく有料の意見広告であれば掲載するが、無料では応じられない」とした。

⇒そこで日本共産党は東京地裁に仮処分を求めたが、申請を却下された。さらに共産党は産業経済新聞社を相手取って「同一スペースの反論文の無料掲載」をさせるよう東京地方裁判所に訴訟を起こす。

・一審・二審とも憲法21条から直接に反論権は認められない、人格権の侵害を根拠としても新聞に反論文の無料掲載などという作為義務を負わせることは法の解釈上も条理上もできないとされ、また当事件では名誉毀損も成立しないとして日本共産党の請求を棄却して全面敗訴させた。

判決を不服とした日本共産党はただちに上告したが最高裁は上告棄却し、日本共産党の敗訴が確定した。

(裁判要旨)

一 新聞記事に取り上げられた者は、当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権又は条理を根拠として、右記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で掲載することを求めることはできない。

二 新聞社が新聞紙上に掲載した甲政党の意見広告が、乙政党の社会的評価の低下を狙つたものであるが乙政党を批判・論評する内容のものであり、かつ、その記事中乙政党の綱領等の要約等が一部必ずしも妥当又は正確とはいえないとしても、右要約のための綱領等の引用文言自体は原文のままであり、要点を外したものといえないなど原判示の事実関係のもとでは、右広告の掲載は、その広告が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、主要な点において真実の証明があつたものとして、名誉毀損の不法行為となるものではない。


※放送法四条の定める訂正放送請求事件

・放送によって権利を侵害された人が,放送局に訂正放送を求めることができるかどうかが争われていた民事訴訟で,最高裁判所は11月25日,民事訴訟による訂正放送の請求はできないという初めての判断を示した。

⇒この訴訟は,離婚をめぐるNHKの放送で,夫の一方的な言い分だけが放送され名誉を傷つけられたとして,埼玉県の女性(58歳)が訂正放送と損害賠償を求めていたものである。

・1審の東京地裁は98年11月にこの女性の請求を棄却したが,2審の東京高裁は01年7月,夫の側に家庭を顧みない部分があったにもかかわらず一方的な言い分を放送し,女性が自己中心的であるかのような印象を与えたとして,NHKに訂正放送を命じ,名誉棄損とプライバシー侵害を認めて130万円を支払うように命じていた。

※最高裁第1小法廷は,NHKに訂正放送を命じた東京高裁の判決を破棄し,

放送法の訂正放送規定は放送局が自律的に訂正放送を行う義務を定めたもので,真実でない放送によって権利を侵害された場合であっても侵害された本人には訂正放送を求める権利はないとの判決を言い渡した。


(放送法第4条の問題)

・訂正放送については放送法第4条に,権利の侵害を受けた本人あるいは直接の関係者から3か月以内に請求があった場合には,放送事業者は放送した事項が真実かどうかを遅滞なく調査し,真実でないことが判明したときには,2日以内に訂正か取り消しの放送をしなければならないと定められている。

・最高裁第1小法廷は,放送法は表現の自由の下で放送の自律性を保障し,健全な発達を目指すものであるとし,番組への他からの関与を排除することで表現の自由を確保することが放送法の理念であるとした。

※そして,第4条の規定は法の全体的な枠組みと趣旨をふまえて解釈する必要があり,他からの関与を排除して表現の自由を保障する放送法の理念からして,訂正放送規定は放送局が自律的に訂正放送を行うことを義務づけたものであり,被害者が裁判で訂正放送を求める権利を認めてはいないと判断した。


かいひろし法律の部屋

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